◇◇月＆＆日 （気分は 五月晴れ） ボツ童話？号
「あらぁ〜、今まで気づかなかったけど、こんなとこにツバメの巣があるのね。
春になったら、飛んでくるかしら」
おかあさんが ガレージのすみっこを見上げて言いました。
おとうさんは そっちをチラッと見ます。
「半分 壊れてるじゃないか。住みつきゃしないさ」
「私たちだって 中古の家をリフォームして引っ越してきたんだし・・・
ツバメだって来るかもしれないわよ、ね〜」
おかあさんが、賛成意見を求めるように ぼくの顔を見ました。
「わーい、ツバメがくる。ツバメがくる！」
妹は チョウチョみたいに はしゃいでいます。
ぼくは、そんなにうまくは いかないだろうと思ったので、
「わかんないよ。ツバメたちは『この家に住んでる人たちは、
巣をぶっ壊すほど乱暴だ』って思うかも・・・」
と、おおげさに ぶっ壊す格好をしました。
☆ ☆ ☆
春、ツバメの夫婦が 巣を作る場所を探して飛び回っています。
「あなた！ ここに 古い巣が、残っているわよ」
「だめだ、だめだ。乱暴に壊されている。きっと、ツバメ嫌いの家なんだよ」
「そうかしら？ お庭も手入れしてあるわ。
優しい人たちが住んでると思うけど・・・」
そんな言い合いをしていたときです。
「あっ！ おかあさん、来て！ ほらっ！」
と、女の子がツバメたちを見つけて 大声を出しました。
「たいへんだ、水をかけられたり、棒で追い回されたらかなわん！ 行くぞ！」
「まさかぁ・・・あなた、考えすぎよ」
二羽のツバメは 低く飛び出してから、すーっと高く舞い上がりました、
ほんのり 花のかおりのする空気を感じながら・・・。
ガレージの巣の下で 泣きじゃくっている女の子が、小さく小さくなります。
☆ ☆ ☆
「今、来たのに・・・いま、チチチチッて お話してたのに」
おかあさんが走ってきたときには、もうツバメは 飛び去ったあとでした。
妹は泣きながら、おかあさんに しがみつきます。
「また、来てくれるわよ、きっと」
おかあさんは 妹をだっこして、ガレージの外へ出ました。
空を見上げた妹が だっこされたままで、もっと そっくり返り、
「あ、おにいちゃん！」
と、指差しました。おかあさんも振り返ります。
「ツバメは行っちゃったけど、おにいちゃんが帰ってきたわね」
「おかえり〜」
「た、ただいま！」
いつもは お出迎えなんてしてもらったことないから、
ぼくは ちょっと照れくさくなりました。
☆ ☆ ☆
ツバメの夫婦は、工場の倉庫や 公園の休憩所や バス停や 幼稚園や
商店街のやおやや・・・あちこち飛び回りました。
「あなた、どうしましょ？ そろそろ決めないと・・・」
「そうだなぁ〜、もう一度 行ってみるか」
「えっ！ どこへ？」
わからないフリをして ツバメの奥さんが聞くと、
「中古の巣だよ、ガレージの・・・」
と、ツバメのダンナさんは ぼそぼそと答えます。
「賛成！大賛成！ きっと歓迎されるわよ」
二羽は とっくに決めていたかのように、てきぱきと働きました。
「いい感じに できあがったわねぇ」
「あぁ、リフォーム大成功だな！」
ツバメの夫婦は 完成した巣に入ったり出たり、遠くから眺めたりして
居心地のよさを楽しんでいます。
☆ ☆ ☆
「うわぁ〜！ できてる！ きれいな巣〜」
妹の声で、みんなガレージに集まってきました。
「ツバメさんのお家、完成おめでとうございます」
と、ぼくが妹に向かって おじぎをすると、
「おめでとうございます」
と 妹がマネをします。おかあさんも うれしそうに頭を下げました。
「おまえたち、自分の家が完成したときより喜んでないか？」
おとうさんが そう言うと、みんなピタッと おじぎをやめて、大笑いです。
笑い声がガレージの中を響き渡ると、
『ここ、想像以上に騒々しい・・・』
と、巣の中のツバメたちは思いました。
（おしまい）
