▽▲月↑↓日 （気分は 青天の霹靂） ボツ童話？号
「こんにちは！ 突撃レポーターの 西野たもつです。ぼくは この小学校の
一年生になったばかりなので、校長室には はじめて入ります。ドキドキしてきました」
今は 放課後。給食時間に放送する『どこでも よかー』という番組を
作っているところです。たもつ君は 今回が、二度目のレポーター役。
この前、理科室に突撃したときは びっくりの連続で、腰が抜けるかと思いました。
それが大うけだったということで、また 出演することになったのです。
「失礼します。あ、校長先生だ。え、えっとぼくは 突撃のたもつです・・・あ、ちがうか
・・・西野たもつです。突撃レポーターです。よろしく お願いします」
「はい、ようこそ校長室へ。校長の長谷川ただしです。まぁ 緊張せずに おかけください」
校長先生は たもつ君に対して 一人前のレポーターのように、ていねいに接してくれます。
「あのぉ、質問しても いいですか？」
「はい、どうぞ」
「校長先生は、校長室の どこらへんが好きですか？」
「好きな場所ということかな？ わたしが好きなのは、校庭が見渡せる 窓辺ですよ」
そう言うと、校長先生は ゆっくり立ち上がって 窓のところへ行きました。
「来て見てごらんなさい。子供たちの元気なこと！ 休み時間や 放課後、
みんなの姿を見て わたしも元気をもらいます」
「へぇ〜、ぼくたち、見られてるんだ！ けんかとかしてるとこも 見てますか？」
「もちろん。子供にとっては けんかも勉強のひとつですからね」
「なるほど！」
たもつ君は 最近おぼえたばかりの言葉で あいづちを打ってみました。
使い方は正しいのでしょうか？
「校長先生。この人たちは だれですか？」
たもつ君は 校長室の壁を ぐるっととりまいている 額縁の写真を見回しました。
「こちらは、わたしの前の校長先生。その隣が、前の前の校長先生ですよ」
「校長室には 校長先生がいっぱいなんですね。ぼくのおじいちゃんち みたいだなぁ。
あ、すみません。おじいちゃんの家では 仏壇の上から ずーっと順番に
おじいちゃん、ひいおじいちゃん、ひいひいおじいちゃん、ひいひいひいおじいちゃん
・・・って 並んでいるので」
「どちらも 大切な歴史です」
「なるほどぉ〜〜！」
たもつ君は よくわからないまま うなずいてから、前の校長先生に 質問します。
「前の校長先生、はじめまして。西野です。歴史は 好きですか？」
「そうですねぇ〜。歴史より 体育が好きでした！」
ちょっとふざけて 写真の校長先生に聞いてみたのに、返事がかえってきました。
「わわわっ！ 前の校長先生がしゃべった！ じゃ、じゃぁ・・・
前の前の校長先生、こんにちは。先生は 写真の中の人がお話できると思いますか？」
質問する たもつ君の声は ふるえています。
「校長先生は 特別だよ。お話するのが好きだからねぇ〜」
「と、と、と、突撃レポートを・・・おわります、みなさん、また・・・」
言い終わらないうちに たもつ君は 校長室から 飛び出して行きました。
あとに残った校長先生と カメラマンの六年生は、顔を見合わせて クスッと笑いました。
☆ ☆ ☆
「こんにちは！ 突撃レポーターの西野たもつです。ぼくの人生、驚きすぎです。
でも、きょうはだいじょうぶだと思います。だって おいしいところ！
近所の和菓子屋さんに来ていますから」
たもつ君が お店の中に入ると、甘いにおいが 出迎えてくれました。
「失礼します。西野たもつです。突撃レポーターです。よろしくお願いします」
おいしそうな和菓子が お行儀よく並んでいます。でも、たもつ君が 気になって
しょうがないのは お店の奥の方に並べて飾ってある、写真の人、人、人・・・。
「なるほど〜。お店の歴史ですね」
「そうだな」
ご主人は ぽつりと言いました。無口な人のようです。たもつ君は
『きっと 前のご主人も、前の前のご主人も お話するのは好きじゃないだろう』
と ほっと胸をなでおろしました。
（おわり）
