そう言って 庭の草むしりの手を止めて、立ち上がりました。
さくらちゃんは 勝手口のよこにかけてある、
おばあちゃんの買い物かごを とりに行きました。
おばあちゃんと買い物に行くのは大好きです。
みちばたのシロツメクサで首かざりを作ったり、
ふくらんだカラスノエンドウの実をピ−ピ−鳴らしながら
歩いたりしていると、さくらちゃんのまわりだけ
ゆっくり時間が流れているような気がしてきます。
きょうは、どんな楽しいことを教えてもらえるんだろう。
わくわくしながら買い物かごを持って、庭へもどりました。
ところが、たいへん。
おばあちゃんが、バッタリ倒れていたのです。
「おばあちゃん！」大きな声で呼んでも、動いてくれません。
さくらちゃんは、かなしくなって泣き出してしまいました。
その声を聞いた となりのおばちゃんが、救急車を呼んだり、
おとうさん、おかあさんに連絡したりしてくれました。
「さぁ、さくらちゃんは おばちゃんといっしょに
おばあちゃんを応援しようね」おばちゃんは そう言って、
ギュッと さくらちゃんの手をにぎったまま、救急車にのりました。
おばあちゃんが 入院することになって、おかあさんは
お仕事を、少しの間休むことになりました。
毎日、おばあちゃんの病院に 着替えをとどけに行くので、
さくらちゃんも おかあさんの車で いっしょに行きます。
「おばあちゃん、来たよ〜。ハイ、みかん」
「こりゃぁ、どうも ありがとね。さくらちゃんにも 心配かけるねぇ」
いつもお見舞いをわたすたびに、
おばあちゃんは 目を細めて 頭をなでてくれます。
それが うれしくて、さくらちゃんは いろんなお見舞いを
考えて持っていくのです。
病院の帰りに 大きなス−パ−マ−ケットで、
ささっと買い物をすませます。
ス−パ−の 大きいビニ−ル袋を おかあさんがふたつ、
小さいのを さくらちゃんがひとつ持って 車にのりこみました。
「おばあちゃんは いつ、お家にもどれる？」
さくらちゃんが おかあさんに聞くと、
「さぁねぇ、おかあさんにも わからないわ」と
前を見て、運転しながらこたえました。
☆ ☆ ☆
それから１ヶ月たったある日のことでした。
「あら、まぁ、これはまた、どうしましょ？」
おかあさんが へんな驚き方をしていたので、
さくらちゃんは 台所へ飛んでいきました。
「どうしたの？ おかあさん」おかあさんは 勝手口で、
今は ス−パ−のビニ−ル袋入れに 使っている
おばあちゃんの買い物かごの中を のぞいていました。
「さくらちゃん、ほら、ここ・・・」そこには 鳥の巣ができていて
ちっちゃな卵が５個、ねむっていました。
「すご〜い！ おかあさん、これ、なんの卵なんだろう？」
こたえは すぐにわかりました。卵たちの おかあさんが、
台所の換気用の小窓から いきおいよく 飛びこんできたのです。
「つばめだ〜！ つばめの卵なんだ〜！」おかあさんは いそいで
おばあちゃんの買い物かごを もとの場所へ かけました。
「このままにしておこうね、おかあさん！」
さくらちゃんは、うれしくてピョンピョンはねながら言いました。
つばめには そんな会話が わかるわけはないのですが、
なんだか 安心した様子で 卵をあたためはじめました。
☆ ☆ ☆
夏が来て、おばあちゃんの買い物かごの中から、
かわいい声が聞こえるようになりました。
おかあさんつばめは エサをとりに行っています。
さくらちゃんは ヒナの顔が見たくて、そ−っと
買い物かごをおろしました。
「うわ−っ、かっわいい！」ヒナたちは大きな口をあけて、
巣の中で おしくらまんじゅうをしています。
「こらこら、ケンカしないで待ってなさい。おばあちゃんが
退院するまで、このかごは貸しておいてあげるね」
さくらちゃんは、まるでヒナたちのおかあさんみたいに
優しく 話かけました。
☆ ☆ ☆
つばめの親子が 南の国に巣立ってから、しばらくして、
おばあちゃんは 退院しました。
「そろそろ、買い物に行こうかね」さくらちゃんが
おばあちゃんの口まねをして、おばあちゃんをさそいました。
買い物かごも じゅんびしています。
前とちがうのは、ちょっとだけ大きくなった さくらちゃんが
おばあちゃんの手を引いて、買い物かごも しっかり持って
出かけているところくらいです。
