∽月Ψ日　　（気分は　才能があふれ出て大洪水！）　　ボツ童話？号

『　スリッパが　たおれた　』

「スリッパがたおれた！」

ゲームをしていたぼくのところへ　おとうとのナオキが走ってきた。

「スリッパって　もともと　たおれてるだろ？」

ぼくは　たおれたスリッパを　想像しながら　ナオキにきいた。

「スリッパは　もともと　立ってるでしょ。

そうじゃないと　歩いたり、走ったりできないもん」

「ま、そうか・・・」

「スリッパが　たおれたんだってば！　来てみて」

ナオキに手をひっぱられて、ぼくは　玄関まで　ドタドタ走った。

「ほんとだ・・・スリッパがたおれてる」

☆　　　☆　　　☆

ナオキは　ゲームより　ねんどで遊ぶほうが好きなんだ。

かいじゅうや　ロボットだけじゃなくて、人のかおを作るのもうまい。

「おにいちゃん、これ　何でしょうか？」

おめんみたいに　平べったい　ねんどを見せて、ナオキがきいた。

「オニのかおか？」

「ブッブー。　ざんねんでした、はずれ」

「じゃぁ、ほら！　あのヒーローの敵の・・・」

「ブッブッブッブー。はずれ！」

ぼくが　ぜんぶ言いおわらないうちに　不正解になった。

「これはね、おにいちゃんに『べんきょうしなさい！』って言ってる

　 おかあさんのかおだよ」

「な、なるほど・・・」　言われてみれば　そっくりだった。

「おにいちゃんってば　おかあさんのこと、『オニ』って言ったぁ〜！」

ナオキは子ども部屋へかけこむ。ぼくは

「おかあさんに言うなよ！」　と　おいかけて行った。

「これは　何でしょうか？」

　 ナオキは　さらにむずかしい問題を出してくる。

「えーっと・・・」

また、おとうさんか　おかあさんのかおだぞ、こりゃ。まずい答えはできないな。

「おとうさんが　テレビで野球を見てて、『あ、ざんねん・・・三振かぁ』って

　 がっかりしている　カッコいいかお！」　ぼくは　かんぺきに答えた。

「ブッブー。ちょっと　おしい」

「『おしい』って　どのへん？」

「『カッコいい』ってとこ」

「カッコいいだろ？　このかお」

「ちがうよ。　がっかりして　ボヨンとなってるんだ」

ナオキが　いばって正解を言った。

「あ〜、ナオキってば　おとうさんのこと『ボヨーンとしたかお』って言ったぁ」

こんどは　ぼくが　はしゃぎながらリビングへ走ってもどる。

「あわわわわ、おにいちゃん！　ないしょだからね、おとうさんには」

☆　　　☆　　　☆

「おにいちゃん・・・あのね・・・」

こしょこしょと　耳もとに話しかけてくるときは、おもしろいことを思いついたとき。

「なに？　いいもの見つけた？」

「うん！　食パンが　マスクしてるよ」

『そんなことあるか！』と　どなりたいのをグッとがまんして

「食パンって　くちがないだろ？」　と、言った。

「うん。でも　耳があるからいいんだ」

「あ、そうか・・・」

「来て！　見てみて」　ナオキは　ぼくの手をひっぱって　台所へ行く。

「ほんとだ。食パンが　マスクしてる」

☆　　　☆　　　☆

台所では　おかあさんが　サンドイッチを作ってくれていた。ゆでたまごの輪切りが

　 パッチリした目のようで、フワッと乗っかったレタスは　マスクみたいだ。

「おかあさん、あのね・・・おにいちゃんがね、『オニ』・・・」

「あーわー、わっわぁー　おいしそうなサンドイッチ！」

ぼくは　あわてた。『オニ』じゃなくて、おかあさんは　わらっている。

ナオキも　わらった。ぼくも　わらった。

（おわり）