Ψ月Ф日 （気分は スーパーヒーロー！） ボツ童話？号
「おかあさん、もうすぐ 赤とんぼの青いおにいちゃんが来るよ。いそがなくちゃ！」
ベランダから表通りの方を見ていた すぐる君が、部屋へ 走りこんできました。
『赤とんぼ』の音楽が聞こえます。
おかあさんといっしょに 階段をおりて、またおりて、もう一階おりて、
ごみを出し終えたころ・・・やって来ました、収集車が。
すぐる君は ごみ置き場の柵の外で青い作業服すがたのおにいちゃんを見ています。
てきぱきと袋をつかんでは 車の中にほうりこみ、車のうしろにパッと飛び乗って
去って行くすがたは、どんなヒーローよりも カッコよく見えました。
「赤とんぼの青いおにいちゃん、きょうも 手をふってくれたよ、行っちゃうときに」
「よかったね〜。おにいさん、いそがしいのに やさしいわよね。
さ、帰って 幼稚園に行くしたくをしなくちゃ！」
階段をのぼって、またのぼって、もう一階のぼって、玄関まで ダッシュしました。
☆ ☆ ☆
すぐる君が ごみ収集車のおにいさんをカッコいいと思うようになったのは、
一年くらい前のことです・・・。
幼稚園に通いはじめたばかりの すぐる君は、いつも お友だちと
ヒーローごっこをして遊んでいました。
「ぼく、『ブルー』。悪い怪人をやっつけよう！」
「オォ〜〜！」
みんなで いきおいよく走り出したとたん つまづいてころんだ すぐる君は、
「あぁーん、いたいよー」
と 大泣きです。
「だいじょうぶ？」
「あ、血が出てるよ、すぐる君！」
「先生を呼んでくるから・・・」
お友だちが 心配して集まってきます。
「うわーん、いたい、いたい すっごく いたぁーーい」
ヒーロー『ブルー』だったはずの すぐる君は 『すりきず怪人』に
やっつけられてしまいました。
「だいじょうぶよ、すぐる君。先生がおくすりぬってあげますから」
「いたいよー。おくすりつけるときだって ピリピリするよー」
あまり涙は出ませんけど、すぐる君は いっしょうけんめい泣きました。
☆ ☆ ☆
次の日の朝、すぐる君は おかあさんに
「ぼく、足がいたくて 歩けないもん」
と言って おんぶしてもらいました。いっしょに ごみ出しに行くときも
おんぶでエレベーターに乗ります。
「到着です、泣き虫『ブルー』ちゃん」
おかあさんが ごみ置き場で すぐる君をおろしながら言いました。
「らくちんでしたー。ありがとうです！」
ちょうど そこへ 収集車が来ました。
「オーライ、オーライ、ストップ」
青い作業服のおにいさんが 運転しているおじさんに合図して、つぎつぎに
ごみ袋を入れていきます。
「うっ！ ささった・・・」
おにいさんが 手をおさえて しゃがみこみました。
「どうした？」
運転席のおじさんが いそいで救急箱をもってきます。
「とがった木かなんかが、入ってたみたいっす」
おにいさんが 手ぶくろをはずすと 血が ながれています。
シュシュッとおくすりをつけてもらって、バンソウコウをピチンとはって・・・、
「すいません、もう オーケーっす」
おじさんに ゆびで合図すると、のこりの ごみ袋をトゥ！トゥ！と
収集車にほうりこんで 行ってしまいました。あっという間の
できごとで、すぐる君も おかあさんも ボーッと見ているだけでした。
「おかあさん、ぼく あるいて帰るよ」
「おっ！ きゅうに『ブルー』が 強くなりましたね」
おかあさんは すぐる君のあたまをクシャクシャなでてから、手をつなぎました。
「すっごく カッコいいねぇ、赤とんぼの青いおにいちゃん・・・」
あの日から 赤とんぼの音楽とともに現れる青い作業服のおにいさんは、
すぐる君にとってのヒーローなのです。
☆ ☆ ☆
このごろ 幼稚園の庭では、ジャングルジムに飛び乗り、
「オーケー！ つぎ、行きまぁす」
と、ごみ収集ごっこをする すぐる君たちが元気に走りまわっています。
（おわり）
