〒月Ω日 （気分は 上向き） ボツ童話？号
早足で歩いていました、気持ちのいい風がふいているのに・・・。
「しんちゃん、どこ行くの？そんなに急いじゃってさぁ」
「あ、おばちゃん こんにちは。じゅくなんです。じゃ また・・・」
「そうかい。気をつけて 行っておいで。空から・・・」
となりのおばちゃんが『空から・・・』とか なんとか 言っていたけれど、
よく聞こえませんでした。つづきが気になりますが、
とにかく ぼくは 急いでいるのです。
☆ ☆ ☆
カラスが 少しバカにしたように鳴きながら、頭の上を 追いこして行きました。
べつに競争しているわけじゃないけれど、ぼくは むきになって追いかけていました。
「おっと、道をまちがえるところだった」
まっすぐに進みかけて あわてて 右へ曲がります。
すると 目の前に 一本の黄色いヒモが下りてきました。
「なんだ？これ・・・」 引っぱってみようと、手をのばしました。
「待てよ。『空から』に 気をつけたほうがいいかもしれない」
ヒモが どこから下りてきたのか、空を見上げてみても わかりません。
ぐっとがまんして、早足することにしました。
黄色いヒモも 同じスピードで ずっと目の前を進んで行きます。
「しつこいなぁ。引っぱるのはやめたんだから、いっしょに来ないでよ」
聞こえたからか、ぐうぜんか、ヒモは グーッと上がっていき、
手がとどかないくらいになりました。
☆ ☆ ☆
引っぱれないと思うと、みょうに気になります。
神様からの プレゼントだったのかもしれない・・・くす玉がわれて、
紙ふぶきや風船といっしょに ゲーム・ソフトの詰め合わせが落ちてきたりしてね。
でも、ヘビのしっぽだったら・・・びっくりだよね。
ターザンのようにヒモにつかまって、アーアァーと 遠くへ
移動できたら・・・じゅくまでなんて あっという間だな。
ヒモをつかんだとたん、ＵＦＯに釣り上げられたりしたら・・・これが本当の
『ＵＦＯキャッチャー』か！
いちばん ありそうなパターンは・・・どれだけ引っぱっても、
きりがないってとこかな。 ますます ためしてみたくなりました。
立ち止まって 空を見上げると、黄色いヒモは五本に増えています。
どれか一本が 神様からのプレゼントなのかな？ ターザンのヒモでもいいよ。
ヘビ以外なら だいじょうぶ！ じゅくの帰り道なら 思い切って
『神様からのプレゼントくじ』を引いてみてもいいのですが、
とにかく ぼくは 急いでいたのです。
☆ ☆ ☆
それに、ぼくは クジ運がとっても悪いということを忘れていました。
クラスで係りを決めるとき、希望どおりになったことはありません。
競争率の高い係りは、くじ引きできめるのですが、ぼくは いつもハズレです。
『給食の余ったデザート争奪じゃんけん大会』でも、一回戦まけばかりだし・・・。
神様のプレゼントを当てられるわけがないな。
ぼくは あきらめて、また 歩き出しました。じゅくまで もう少しです。
最後に もう一度、空を見上げました。
金色の光のすじが、空いっぱいにあふれています。
「夕方の空ってきれいなんだなぁ・・・」
これも神様からのプレゼントのような気がして、ちょっぴりうれしくなりました。
☆ ☆ ☆
じゅくから帰ると、となりのおばちゃんが 玄関で おかあさんと話をしていました。
「あら、しんちゃん お帰りなさい。じゅくは どうだったの？ 百点とれた？」
おばちゃんの質問攻めがはじまりました。
ぼくはまだ この攻撃から逃げる技を覚えていません。しかたなく
「おばちゃん、さっきの話のつづきだけど、『空から・・・』どうしたんだっけ？」
と、聞いてみました。
「空から？ そんな話したかしらねぇ。『気をつけて行っておいで。それから
玄関にスイカを置いておくから、おかあさんより早く帰ってきたら
冷蔵庫に入れておいてね』とか言ったかな」
「スイカ？『空から』じゃなくて、『それから』だったのか・・・」
『空から』に 気をつけなくてよかったのなら、黄色いヒモを引っぱっていたかな。
もうすっかり暗くなった空から、星たちの笑い声が聞こえた気がしました。
（おわり）
