〆月Ю日　　（気分は　雨のち雨でも平気）　　日刊童話　第６号

『　雨ん子　』

田んぼの間の　小さな川で　ちっちゃな魚が　泳いでいます。

「おなかが　川底にぶつかりそうだ。　もっと　広い川で泳ぎたいよ」

ちっちゃな魚は　住みなれた川を　出て行こうと思いたちました。

広い川は　流れに乗って行かなくてはいけません。

だけど　今は　水が少なくて　ほとんど流れがなかったのです。

「こっちかな？」　ちっちゃな魚が向かって行ったのは

流れに　さからって行くほう・・・川上でした。

「だんだん　泳ぎにくくなってきた。　こっちじゃなかったのかな？」

向きをかえようとしましたが、　石ころがじゃまして　まわれません。

せなかに　ジリジリ　おひさまの光が　照りつけてきます。

「あついなぁ〜。　このままじゃ、　ひからびちゃうよ」

ちっちゃな魚は　横を向いたり、　ひっくり返ったり、

　 とび上がったり、　ジタバタしてみました。

おひさまが　わらっているのが　チラッと見えました。

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

小川の魚が　ピチピチはねる

雨が　ほしいよ　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　虹になる♪

川岸の土手を　女の子が　うたいながら　あるいています、

雨がさを　クルクルまわし、　長ぐつを　ボコボコならして。

とたんに　雨がふりだしました。　小さな川にも　水が流れはじめます。

ちっちゃな魚は　流れに乗って　広い川に出ることができました。

川上のほうに　虹が　フワッと　うかんでいます。

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

ブロックべいの　すみっこで　かたつむりが丸くなっています。

「このへいを　おさんぽしてみたいなぁ。それにしても　なんて暑いんだ・・・」

かたつむりは　しめったところが大好き。

　 ジリジリ照り付ける　おひさまの光は　すごく　にがてです。

朝はやく、ここのお家の人が　庭の木や花に　水をあげていたから、

地面はなんとなく　ひんやりしていました。

思い切って　モソッ、モソリと　上の方へ動いてみました。

アリのぎょうれつが　すぐそばを　シャカシャカと　とおりすぎて行きます。

「アリさんは　元気だなぁ。　どこへ　急いでいるんだろう？」

モソッ、モソッ・・・ブロックべいは　だんだん熱くなってきて

からだの水分まで　なくなってしまいそうになりました。

「ここで　干からびたら、アリさんたちが　運んでくれるかも・・」

そんな　ラクちんなことを考えてたら、ポテッと　ひっくり返ったまま

落ちてしまいました。　おひさまは　もっと高く、もっと白く　かがやいています。

「のどが　かわいちゃったよぉ。　お家の人が　夕方　水やりをしてくれるまで

ひからびないで　待っていられるかしら？」

ボーッと　そんなことを考えていたら、どこからか　うた声が聞こえてきました。

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

かたつむりくんが　ひからびちゃうよ

雨が　ほしいな　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　雲になる♪

雨がさを　クルクルまわし、小さな女の子が　おさんぽしています、

ながぐつを　ボコボコならしながら・・・。

きゅうに　雨がふってきました。　ブロックべいにも　雨がしみこんでいきます。

かたつむりのおなかの中にまで　雨が入ってきました。

からだを　グニュッと動かして　元気に　へいをのぼってみます。

「アリさんたちは　どこへ行っちゃったんだろう？」

灰色の雲は　いつのまにか　わたがしみたいに　まっ白でした。

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

なにか　エサを見つけたのでしょうか？

　　　 ツバメが　一羽、　スゥ〜ッと　飛んできます。

　 車が　ひっきりなしに通っている広い道のはしっこの歩道には

　 スズメがいました。　長いミミズを　つかまえたけれど、

　 ジタバタされて　てこずっているようです。

　 ツバメが　近づいてくるのを感じたスズメは　あわてて飛び立ちました。

　 「そのミミズ、　おまえには　でかすぎるだろ？

　　 もらってやるから　おいて行きな！　ちびスズメ！！」

　 スズメは　ひっしで逃げました、　心の中で

　　 ちびだって、エサを待ってる　もっとちっちゃな子供たちがいるんだい！

　　 かんたんに　取られてたまるもんか！！」　と　さけびながら・・・。

　 すると　どこからか　うた声が聞こえてきました。

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

スズメのとうさんが　エサをまもるため

雨が　ほしいな　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　いなびかり♪

歩道を　小さな女の子が　おさんぽしています、晴れているのに

　 ながぐつを　ボコボコならし、　雨がさを　クルクルまわしながら・・・。

あたりが暗くなり、　ポツポツ　雨が落ちてきました。

「これくらいの雨、　平気なんだよ。　あ〜〜、いいきもち♪」

ツバメは　ますますスピードを上げて　スズメに　せまっています。

と、そのとき・・・バケツをひっくり返した、いえ　プールをひっくり返した

ような雨が　ドバァ〜っと　降ってきました。　さすがのスバメも

「うわぁ！　こりゃダメだ、くっそぉ・・・」　と、あきらめて

近くのお店の　のき下に　もぐりこんでいきます。

スズメは　なんとか自分の巣まで　たどりつき、おチビちゃんたちに

雨でぐったりしているミミズをあげました。

空は　まっ暗、　いなびかりが　走っています。　でも、

チュン、チュン♪　公園の休憩所の　屋根のすき間からは

楽しそうな鳴き声が・・・。　

☆　　　　　☆　　　　　☆

畑のすみっこに　ひまわりが　５本さいています。

５日前までは　５本とも　元気に　南を向いて立っていました。

４日前に　いちばん右のひまわりが　ガクッと　下を向いてしまい、

３日前には　そのとなりのひまわりも　元気がなくなり

おとといは　そのとなり、　きのう　もう１本も・・・。

きょうは　とうとう５本目のひまわりまで　へなへなです。

葉っぱは　たしか　ハートのかたちをしていたはずですが、

今はもう　クシャクシャで　紙くずのようでした。

それでも　おひさまは　うれしそうに　畑を照らしています。

「みんな、　負けるんじゃないぞ！」

「そうさ、　ボクらを植えてくれた子は　楽しみにしてるんだ、

たくさんのタネがとれるのを・・・」

「あぁ、　ハムスターのエサにするんだって　言ってたな」

「枯れてたまるか！」　「くそぉ〜〜、それにしても暑いなぁ」

５本のひまわりたちは　はげましあいました。　と、そのとき・・・

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

畑のひまわりが　しおれてしまう

雨が　ほしいな　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　かけぬける♪

かわいい　うた声が　聞こえてきました。　ふと　見ると

畑のあぜ道を　小さな女の子が　あるいてきます、晴れているのに

　 ながぐつを　ボコボコならし、　雨がさを　クルクルまわしながら・・・。

空のはしっこの方から　にゅうどう雲が　モクモクもりあがったかと思うと

シャワーみたいな雨のカーテンが　みるみる畑に近づいてきました。

「わぁぉ！　気持ちいい！！」　「生き返った・・・」

「雨が　頭にしみる」　「そうだな！　元気が出てきた」

「雨って　こんなに　おいしかったっけ？　アハハハッ」

そこらじゅうに　土のにおいをただよわせながら、　雨は　かけぬけ

ひまわりの葉っぱは　ハートのかたちに　開きはじめました。

☆　　　　　☆　　　　　☆

「明日の体育は　とび箱だからな」

　　 先生が　時間割を黒板に書きながら　言いました。

　 「えーっ？！　プールじゃないんですかぁ？」

　 生徒たちは　いっせいに　さわぎたてます。

　 「ほらぁ、しずかに！　今年は雨が少なくて　水不足なんだ」

　 そう言ってから　黒板に『節水』と　大きく書き、

　 「せっすいと読みます。　水を節約すること・・・水は大切に！と

　 いうことだな。　みんな、家でも　水をむだづかいしないように」

　 と　生徒たちの顔を見わたして　言いました。

　 「そういえば　ぼくのおとうさん、　今までは　車を洗うの

　 ホースでシャーッて　やってたんだけど、きのうは　バケツに水をくんで

　 ちょっとずつ流してたな。　先生、節水って　そういうことですか？」

　 「あぁ、それも　節水のひとつだな。　水を出しっぱなしってのは

　 よくないから、みんなも　歯みがきのとき　気をつけろよ」

　 「先生！　ぼく、トイレのあと　節水して　手を洗うのを　がまんします」

　 「おい、こら！　それは　やりすぎだ！　手は　きれいに洗ってよし！」

　 アハハハハ・・・教室は　笑いにつつまれました。

　 「水って　大切なものだよね」　だれかが　ぽつりと言いました。

「プール、入りたぁーい！」　べつの生徒が　泳ぐマネをします。

「いつまで　節水するんですか？」　という　しつもんに　先生は

「そうだな・・・川の上流のダムのあたりに　ドバーッと雨がふって

ダムにたくさん　水がたまるまでだろうな・・・」と　こたえました。

　 「雨ん子、呼ぼうよ！」　ひとりの女の子が　うたいはじめます。

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

水を大切に　使うからさぁ

雨が　ほしいよ　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　泳ごうよ♪

☆　　　　　☆　　　　　☆

クラスでいちばん小さな女の子、アマネちゃんは　うたいながら

　 窓べに走って行って　空を見上げてみました。

「来た、来た！　雨雲が　来たよ！！　みんなも　うたおうよ」

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

水を大切に　使うからさぁ

雨が　ほしいよ　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　泳ごうよ♪

まっ黒い雲が　学校の上を　ゆっくりと通り過ぎて行きます。

みんなも　うたいながら、　その雲を　見送りました。

「ダムに　雨がふるね、　きっと・・・」　みんな うれしそうです。

「アマネちゃん、　雨ん子って　だぁれ？」　だれかが　聞きました。

「しらない・・・雨をふらせてくれる子どもじゃない？」

その日のうちに　ダムにいっぱい　水がたまったそうです。

つぎの　つぎの体育は　プールで泳げることになりました。

笑い声と　水の音が　青空の下で　はじけます。

「気もちいいねー。　アマネちゃん、　どっちがさきに

　 むこうまで泳げるか、　きょうそうよ！」

　 「うん！　まけないから！」　水しぶきは　おひさまの光で

キラキラかがやき、　虹のように見えました。

☆　　　　　☆　　　　　☆

「アマネちゃんは　急に　転校することになったそうだ」

先生が　つぎの日の朝、　言いました。

「えーっ？！　きのうまで　なんにも言ってなかったのに・・・」

みんな　びっくりしています。　だれからともなく　うたいはじめました。

♪雨　ふれ、　雨　ふれ、　ポツポツポツ

水を大切に　使うからさぁ

雨が　ほしいよ　ザァザァザァ

ふったら　雨ん子　泳ごうよ♪

アマネちゃんは　きょうもどこかで　うたっているかもしれません。

ながぐつを　ボコボコならし、　雨がさを　クルクルまわしながら・・・。

（おしまい）