☆月★日 （気分は ポカーン のち ほんわか） ボツ童話？号
シャクッ、シャクッ、トントントン・・。
おかあさんが 白菜を切っています。
まみちゃんは テーブルに置いてあるガラスのボウルを のぞきこんでいました。
中には ぬるま湯が入っていて、干ししいたけが 気持ちよさそうに浮かんでいます。
「まみちゃん、その干ししいたけを取ってくれる？」
白菜をザルに入れながら、おかあさんが言いました。
「干ししいたけは きらいだぁ！ ずっと この中に 浮かべたままで・・・」
などと ブツブツ言いながら、まみちゃんが しいたけをつかもうとしたときです。
ポワワ〜ン、ペチン！
干ししいたけの中から 小さいあわが出てきて はじけました。
「やれやれ もうちょっとで 料理にされてしまうところじゃった・・・」
まみちゃんのツメより もっと小さなおばあさんが、ボウルのふちにつかまっています。
「おばあさん、だれ？ どこから来たの？」
「おばあさんじゃない。わたしゃ、干ししいたけの妖精じゃよ。それっ、どっこいしょ」
と、おばあさんは テーブルに降りました。
「え〜っ？ 妖精って せなかに羽の生えた かわいい女の子じゃないの？」
「そういうのも おるにはおろうが、干ししいたけの妖精は み〜んな わたしのような淑女なんじゃ」
「まみちゃん・・・だれとお話してるの？
しいたけを取ってってば」
「淑女ってなあに？ おかあさん！」
「淑女っていうのはねぇ・・・おかあさんみたいに 落ち着いてて、気品に満ちたレディのことよ」
「へぇ〜、おかあさんは おばあさんか」
「なに わけのわかんないこと言ってるの？
それより、しいたけ！」
☆ ☆ ☆
「おかあさんの料理は いつもおいしいなぁ。
この白菜のスープなんて最高だよ、な！」
おとうさんが、しぶしぶ食べている まみちゃんを見つめながら言いました。
「干ししいたけの もどし汁も たっぷり入ってますからね」
おかあさんも ちらりちらり まみちゃんを見ています。
「え？ この おばあさんのもどし汁が？
ますます 干ししいたけが きらいになりそう・・・」
干ししいたけの妖精は まみちゃんのおちゃわんの すぐそばに座っています。
「夕方から まみちゃんは おかしなことばっかり言うのねぇ」
どうやら まみちゃんにだけ 干ししいたけの妖精は見えているようです。
晩ごはんのあと じぶんの部屋で宿題をしていると、干ししいたけの妖精が
ノートの上に乗ってきて 言いました。
「わたしを見つけてくれた子には ひとつだけねがいごとを かなえてあげることに
なっておるのじゃが・・・なにか、あるかの？」
「えっ？ ほんとに？ う〜ん、なにがいいかなぁ。宿題は もう少しで終わっちゃうから、
もっと たいへんなことを手助けしてもらいたいな。おねがいするのは いつでもいいの？」
「かまわんよ、いつでも・・・。それまではおまえさんのそばにおる」
まみちゃんは ベッドの中でも あれこれかんがえました。
「たったひとつだから よぉくかんがえよっと！」
☆ ☆ ☆
まみちゃんのねがいごとが決まるまで、干ししいたけの妖精は いつもそばにいてくれました。
「雨がふりそうじゃな。きょうは みちくさをくわずに さっさと家に帰ったほうがよさそうじゃよ」
「どうして そんなことがわかるの？」
「ほっぺが すべすべしてきたのじゃ。みずみずしい女の子の妖精のようにな」
「ふ〜ん、わたしのほっぺは いつもすべすべの つるつるよ」
「わたしゃ、ほら 淑女だからのぅ・・・ふだんは かさかさなのじゃ」
家に帰ってから まみちゃんが言いました。
「干ししいたけの妖精さん、おねがいごとを決めました。こんどの遠足、晴れにして！」
「よし、わかった。きっと晴れるから、楽しみにしておいで。それじゃ、わたしゃ 消えるとするかの・・・」
「もう少しいて！ たくさんお話しよう！」
「いつかは消えるものなのじゃ」
干ししいたけの妖精は ふっと見えなくなりました。
まみちゃんは 思います。干ししいたけの料理が まちどおしいなぁ・・・。
（おわり）
