Ｘ月▽日 （気分は晴れて〜！） ボツ童話？号
「もう、いいかい？」「まぁだだよ」
「もう、いいかい？」「まぁだだよ」
「もう、いいかい？」「もう、いいよ〜」
「さぁ、みつけるぞ〜」「へへっ！みつからないよ−だ」
ふうちゃんは、寝る前に いつもおかあさんと かくれんぼをします。
え−っ、寝る前に？ 走りまわるの？ しかられないの？
そう思うでしょ？ でも、ふうちゃんのかくれんぼは
走って逃げるんじゃないの。お布団の中で するのよ。
☆ ☆ ☆
ふうちゃんの右手が、逃げる人です。鬼は いつも、おかあさん。
かけ布団の下にかくれて、ふうちゃんの右手は 逃げまわります。
おかあさんが 「もう、いいかい？」と 聞いても
すぐには 「いいよ」を 言いません。
とっくに かくれる場所は 決めているけど、
それでも ゴソゴソと 考えているフリをします。
おかあさんが ３回か４回、たずねたあとで 「もう、いいよ」って
言うことに 決めているのです。
今日は からだから ずっと離れた、もう少しで かけ布団から
はみだしそうな、ギリギリのところに かくれました。
そして、昨日考えた作戦どおり、左手を ポコッと
おなかの上に 目立つように 置きました。
☆ ☆ ☆
「ハイ、右手ちゃん、みっけ！」おかあさんが いきおいよく、
ふうちゃんのおなかの上の左手を おさえて言いました。
「ざんねんでした。右手は こっちだよ」と ふうちゃんは
かけ布団の はしっこから、ピョコンと出してみせました。
「あら、ほんと。今日は おかあさんの負けね」
おかあさんは、ふうちゃんの右手をふんわりにぎって
布団の中に入れました。
「おかあさん、おやすみなさい」「ふうちゃん、おやすみ」
おかあさんは、ふうちゃんのおでこをチョンとつついてから、
電気を消して、出て行ってしまいました。
☆ ☆ ☆
窓のそとは ぼんやりと明るくて、ときどき 車が通り過ぎる音がします。
ふうちゃんは 眠ってしまうまでのちょっとの間、
明日のかくれんぼの作戦をたてることにしています。
でも、『右手と左手の場所を入れかえてみようかな・・・』などと、
むずかしいことを考えはじめると、きまって 頭がモ−ッとして
しだいに、外の音も聞こえなくなってくるのでした。
☆ ☆ ☆
ふうちゃんは、かくれんぼで勝った夜、いつも楽しい夢を見ます。
負けた夜は、夢がありません。
だから、勝ちたくて勝ちたくて しょうがないのです。
『今日は かくれんぼに勝ったから、きっと 楽しい夢が待っている』
そう思いながら、ふうちゃんは もう 空を飛んでいました。
「あそこで おりてみよっと」庭に 赤い実のいっぱいみのった木がある、
小さな家の前に 着陸しました。
目の前には おいしそうな家がありました。
屋根には おせんべいとポテトチップス、かべには四角いドロップス、
玄関のドアはチョコレ−ト、犬小屋はウェハ−スで その中には
マシュシロの犬もいます。ふうちゃんは マシュマロが好きではないので
『よかった〜』と思いました。もし、大好きなアイスクリ−ムで
できた犬だったら、かわいそうだけど
一番最初に かぶりついてしまったでしょうから・・・。
お菓子の家の中は、光でキラキラしていました。
かべがドロップスだから、家中 色つき窓ガラスのようです。
ふうちゃんは、『月の明るい夜 こんな部屋で寝てみたい』と思いました。
☆ ☆ ☆
次の日も、ふうちゃんのかくれんぼの時間がきました。
「もう、いいかい？」おかあさんが やさしく聞きました。
ふうちゃんは、『昨日 夢の前に考えた、入れかえ作戦にしよう』
と思いながら、言いました。
「まぁだだよ」
（おしまい）
