■月▲日 （気分は ドキドキ のち ガックシ） ボツ童話？号
「きょうは とくべつ 暑いなぁ」 チキチキッと音を立てて バッタはとんだ。
葉っぱの上で じっとしていても 足が熱い。公園のふんすいは 水しぶきをあげていた。
「あそこは すずしいかな」 バッタは シュタッ、シュタッと
ふんすいのある池のふちまで はねて行った。
「アチッ！ アチチ・・・」 ふんすいから出ているのは お湯だった。
水をお湯に変えてしまうくらい おひさまはギラギラしている。
「木のかげへ 行ってみよう」 バッタは ポテッポテッと はねた。
木かげには シートをしいて お弁当を食べている親子がいた。
「ちょっと おじゃまします・・・」 バッタは えんりょしながら
シートの上に とびのった。地面から ジワリジワリと熱がつたわってくる。
「がまんできない！」 バッタは 思わずジャンプした。
着地したのは ポテトチップスのふくろの上。
「ふかふかで 気持ちいいや」 バッタは うとうとしてしまったらしい。
フワフワと 空をとんでいる夢をみていた。
ふんすいの公園を 見下ろしながら、たかくたかく のぼっていく。
☆ ☆ ☆
「きょうは とくべつ 暑いなぁ」 ひからびてしまいそうな感じがして、
バッタは目をさました。眠ってしまう前とおなじように ポテトチップスのふくろの上だ。
風はふいているけれど ムワ〜ッと生ぬるかった。
「な、な、なんだ？ ほんとに 空をとんでるぞ！」
バッタは あわてて ふくろのはしっこをつかまえた。
パンパンにふくらんだ ポテトチップスのふくろは いまにも はれつしそうだ。
「どこまで とんでいくんだろう・・・」 風にのって流されていく ふくろとバッタ。
生まれてはじめて 海のかおりをかいだ。
「お弁当の おにぎりみたいなにおいだけど もっと ずっと いっぱいだ！」
ふんすいの池より大きな 青が見える。その向こうには、
いつもの原っぱより大きな緑が見える。
「あたたまった空気は ふくらむんだな。熱い空気は のぼっていくんだな」
バッタは しんけんな顔で つぶやいた。いくら勉強したって
わかりそうもないことも、からだで覚えたら 決して忘れない。
「ともだちにも おしえてあげよう・・・」 でも それより先に、うしろで大きな鳥が
ふくろをねらっていること、だれか バッタに おしえてあげないと・・・。
☆ ☆ ☆
「きょうは とくべつ 暑いなぁ」 おひさまは 手のとどきそうなところで
かがやいている。コンコンッと なにかがふくろをつっついた。ふりむくと大きな鳥。
「うわぁ〜、やめろ〜。はれつする！」 パッコーン！
ポテトチップスのふくろは ヘロヘロになって とばされていった。
バッタは？ ちらばったポテトチップスの一枚に しっかり しがみついていた。
「たすかった〜。たすかるかも〜」 バッタは ポテトチップスといっしょに
空から すべりおりていく。原っぱより大きな 緑にすいこまれていくように・・・。
「着地、成功だ！」 グシャ・・・ポテトチップスは こなごなに こわれてしまった。
「あぁ・・・ごめんよ〜」 ポテトチップスのおかげで バッタはたすかった。
けれど、森の中で ひとりぼっちになってしまった。
☆ ☆ ☆
チキチキッと音を立てて バッタはとんだ。足は熱くなかった。
空気は やさしく おいしく すずしい。
「これが 森のかおりなのか・・・」 バッタは 深く息をすった。はき出すのが
もったいない。すって、すって、おなかいっぱいすってから やっとはき出す。
森の空気は 少しだけ ポテトチップスのにおいがした。
「きょうは とくべつ・・・」
（おわり）
