■月▲日 （気分は ぼんやり） 週刊童話 第４号
釣り具屋さんちの屋根の上は ポカポカ、暖かかった。 昨夜、あまり眠れなかった （おしまい）
ボクは うとうとしてしまって、 足をすべらせた。 カァ〜！ バサバサバサッ！
もう少しで 屋根から落ちるっていうところで あわてて 羽ばたいた。
「あぶなかったわね。 何してんの？ クロったら！」 いつの間に 現れたんだろう？
パルが 大声で 笑っていた。 見られたか！ 一番 笑われたくないパルに
思いっきり 笑われてしまった。 ボクは 話を変えようとして 言った。
「タカのすみか、知ってるぞ！」 パルは ピタッと 笑うのをやめて
「えっ？！ どこ？ タカのお家は どこ？」 と ボクにつめ寄ってきた。
昨日、パルが タカに 追い返されたあと、 ボクは 必死で タカのあとを
ついて行った。 がけの上の林の中、見つかりにくい場所に タカの巣があった。
巣のなかでは かわいい子供たちが お腹をすかせて、泣いていたっけ。
「ついて来な！」 ボクは かっこつけて、そう言った。
「なによ！ 屋根から 落っこちそうになったクセに〜」 パルは また思い出し笑い
しながら、 ボクの後から ついて来た。 港のはずれのがけまで 全速力で飛んだ。
「待ってよ〜、 いじわる！ ちょっとくらい 待ってくれても いいでしょ〜？！」
はるか後方で パルが叫んでいるのを ボクは 心地よく聞いていた。
☆ ☆ ☆
「あそこさ」 ボクは 林の上まで舞い上がって まん中あたりにある
大きめの巣を くちばしで指し示した。 パルは やっと追いついてきて、
「うん、 あそこね。 行ってみる。 ありがとう」 と お礼を言ったが
ボクの目を 見てはいなかった。 タカのすみかを目がけ、 一直線に 降りていく。
パルが なにを考えているのか ボクには わからないけど、
あの急ぎようは よっぽどのことなのか？ しばらく ここらへんを
フワフワしながら 様子を見ていることにした。
巣に近づいたパルは 中をのぞきこんだ。 タカは いなかった。
３羽のヒナたちが エサを待って、 おしくらまんじゅうをしているみたいに
あばれている。 『パルのやつ、 きっと 何か言うぞ』 と ボクは思った。
「ほぉ〜ら、あんたたち お行儀よく待っていないと 落っこちちゃうわよ！」
やっぱり言った。 ヒナたちが 急に おとなしくなった。 だけど それは
パルのお説教の効き目ではなく、 １羽のヒナが ほんとに 落ちてしまったから。
「しょうがないわねぇ。 そこで 反省する？ おねえさんが 助けてあげようか？」
パルが 地面に降りていこうとしたとき、 落ちたヒナの後ろに ネコの姿が見えた。
「パル！ ネコだ！ ヒナをねらってるぞ！！」 ボクは 急降下しながら さけんだ。
☆ ☆ ☆
ボクは 地面に近づくと、ヒナの首をくわえて ヒュッと 舞い上がった。
目的を失ったネコは そばにいたパルに 飛びかかった。 パルは
あわてて はばたいたけれど、 つばさを ネコにひっかかれてしまった。
「うっ、イタッー！ やったわね、コイツゥ！！！」 今度は パルが
ネコに 飛びかかった。 くちばしで 憎っくきネコの頭を 何回もつついたんだ。
さわぎを聞きつけたタカが すみかに戻ってきたとき、 ボクは 助けたヒナを
巣に もどしてやるところだった。 なにを かん違いしたのか、 タカは
「コラァ！ その子たちに 手を出すな！！ とっとと そこから離れろ！」 と
どなった。 攻撃されちゃ たまらないので、 ボクは 巣から遠ざかる。
「なに 怒ってんのよ！ クロは あんたの子どもを ネコから救ったのよ！」
飛べないパルが 地上から叫んだ。 タカは ギクッとしたようだが
「そ、そうだったのか・・・クロ、 どなって すまん。 ありがとな・・・」 と
ボクに向かって 言った。 パルが 今までのことを くわしく話す。
「そのネコ、 頭にキズあとが なかったか？」 タカが 聞いた。
「えぇ〜っと・・・うん！ たしかに 頭のてっぺんが 少しハゲてた」
パルは 思いっきり ネコの頭をつついていたから、 よく覚えてるはずだ。
「ヤツだな・・・また、来やがったか・・・」 タカは ボソボソと話し始めた。
「１か月前、 きょうと同じように 巣から落ちた子どもを・・・ヤツから
助けようと・・・かばった あいつは・・・で おれは ヤツの頭に
一撃を食らわせてやったんだが・・・結局、そのときのケガで あの子たちの
母親は・・・死んじまった・・・」 タカは 奥さんをなくして、 ひとりで
子育てしていたのか。 ボクは タカのことを 少し、 見直した。
「ケガ、 だいじょうぶなのか？」 パルのほうを見て タカが言った。
「あ、 こ、 これね？ 平気、平気！ ほ、 ほらねっ！」
パルは はばたいて見せた。 がまんしているようにも思えたが、
それは それで パルらしかった。 ボクは パルのことも 少し、 見直した。
☆ ☆ ☆
ボクが ゴミ捨て場で エサを探していると、 クチバシに コッツンと 固いものが
ふれた。 鳥のかたちをした 木のオモチャだった。 足には 車輪がついている。
長いヒモがついているので、 引っぱって 遊ぶものなのだろう。 ボクは ひらめいた！
さっそく そのオモチャのヒモをくわえて、 タカのすみかへ 向かっていると
運わるく、 パルに 見つかってしまった。 大声で 何か叫んでいる。
「ちょっと〜！ どこへ行くのよ？！ そんなもん 連れて・・・」 と聞かれても
今のボクは しゃべれないので、 とにかく 港のはずれのがけの上へ 急いだ。
「タカのところへ 行くんでしょ？ わかってるんだから！ 何しに 行くの？」
しゃべると オモチャを 落としてしまうから、 引き続き 返事をしない。
「聞こえないフリしたって ダメよ！！ 教えなさい！」 パルは かまわずに聞いてくる。
「おまえなぁ〜、 いいかげんにしろよ！」 っと ボクは 振り返って どなった。
そのとたん、 オモチャは 海へ トップンと 落ちてしまった。
「あ〜ぁ、 落しちゃって・・・」 パルは ひとごとのように 笑っている。
「おまえが 話しかけるからだろ！」 ボクは 海面すれすれまで降りて
浮かび上がってきたヒモを くわえた。 ちょっと 塩味・・・。
《イラスト：しーのさん 作》
☆ ☆ ☆
ボクは、鳥のかたちのオモチャを タカのすみかの真下に置いた。
「よし！ 準備ＯＫ！ あとは・・・と」 少しワクワクしながら
長いヒモを 草むらのほうへ のばして 隠れた。
「クロ〜！ そんなとこで 何してんの？」 空から パルが 大声で聞く。
「隠れてるんだから・・・しずかに！」 ボクは ヒモのはしっこをくわえた。
「ねぇ、おもしろそうじゃん！ わたしも 仲間に入れてよ！！」
パルが 降りてきた。 ボクは 作戦を説明してから しずかに言った。
「パルは タカの家から 見守っててくれ。 いいな！」
「わかったわ・・・がんばってね。 成功を祈る！」 パルは おとなしく飛び立った。
ボクは ヒモをくわえなおして、 からだを丸めた。 草のにおいがした。
とんがった葉っぱが 鼻をくすぐる。 クシャミが出そうになったけど
グッと がまんした。 ミシッ、パキパキッ・・・枯れ枝を踏みながら ヤツは来た。
「来たな・・・」 ボクは 少しずつ歩きはじめた、 オモチャを引っぱりながら。
頭のてっぺんをケガしたネコが ゆっくりと ついて来る。 ヒナじゃないと
バレたらまずいので、 ちょっと スピードをあげた。 まだ ついて来る・・・。
「今だ！」 と思った瞬間に ボクは 飛び上がって 目の前の オナモミの草むらに
オモチャを放り投げた。 ネコは 鳥のオモチャに飛びついた。
「痛ってぇ〜〜〜！！」 ネコの悲鳴が 林の中に ひびきわたった。
オナモミの実は くっつき虫。 トゲトゲが ネコのからだ中にくっついたんだ。
「やったわ！ やったわねっ、クロ！！」 パルが 木の上から叫ぶのが聞こえた。
もがけば もがくほど、 くっつき虫は ネコにしがみついて チクチク攻撃している。
たまらず ネコは 逃げ出した。 ボクは そのカッコ悪い背中に向かって叫んだ。
「二度と ヒナを襲うなよ！ 負けネコ！！」
☆ ☆ ☆
エサを持って トンビのタカが帰ってきたとき、
ボクとパルは まだ どきどきしながら 話をしていた。
「どうしたんだ？ なにか あったのか？」 タカが 言った。
「なにか・・・なんてもんじゃないの！ クロがね、 あのネコを追っ払ったの！
オナモミだらけのネコの格好、 タカにも 見せたかったわ」
「そうか。 クロ、 うちの子たちのために ありがとな！ これで安心して
エサさがしに行ける。 パルにも 心配かけたな。 いままで ありがとう」
「ああ・・・たいしたことは してないよ」 ボクは ぼそっと返事した。
パルは 巣の近くの枝にとまって 大声で 話しはじめた。
「タカったら みずくさいこと言ってるんじゃないわよ。
これからも 毎日、 おねえさんが来てあげるからね、 おチビちゃんたち〜。
そのほうが 安心でしょ？タカも。 遠慮しなくていいのよ、 わたしが
ママ代わりに なってあげるからさ・・・・・・」
パルの はりきった声を聞きながら ボクは 釣り具屋さんのほうへ 飛び立った。
「ママ代わりか・・・」 海の風は しょっぱくて ひんやりしていた。
