＊月？日 （気分は小春日和） 週刊童話 第４号
カラスのクロが どこに住んでいるのか、だれも知りません。 （下につづく）
朝になると あらわれ、夕方には すがたが見えなくなってしまいます。
人間は カラスのこと、あんまり好きじゃないみたいだけど
カラスは 人間が 好きなんだよ・・・。
これから 始まるお話は、カラスのクロが引き起こす、ハチャメチャな喜劇です。
少しでも クロのファンが 増えてくれると とってもうれしい！
って、クロが 申しております。
それでは、ここからは カラスのクロの言葉を 日本語に書き直して おとどけしますね。
☆ ☆ ☆
最近の ボクのお気に入りの場所は、漁港のそばの 釣り具屋さんちの屋根の上だ。
ちょっと 遠くまで飛んできたな〜と思った日、目の前に 海が光っていた。
空気のにおいが 今までお気に入りだった 町の電柱の上とは ぜんぜん違う。
ボクが住みかにしている山のにおいとも ぜんぜん違う。 それは アジの開きを
食べたときより もう少し さわやかな香りだった。
☆ ☆ ☆
岸壁のほうで カラスの鳴き声がした。 こんなところへやって来るカラスが
ボクのほかにもいるんだな。 様子を見に 行ってみよう！
何段にも積まれた テトラポットの上に １羽のカラスがいた。
小さな魚をくわえている。 下では 釣り人らしい男の人が
「こらぁ〜〜！ 半日がかりで やっと釣ったアジなんだぞ！ 返せ！」
と、怒鳴っている。 ボクは 少し離れたところから ながめることにした。
そのカラスは 足を器用に使いながら、活きのいいアジと 戦っていた。
「ねぇ、見てないで 手伝ってくれない？ ワタシ、生きてる魚って
初めて食べるのよ。 どうすればいいの？」 なれなれしいなぁ。
「キミ、名前は？ あ、ボク、クロっていうんだ」 そばへ飛んで行って聞いた。
「ワタシは パル。 よろしく！ ねぇ、この魚 押さえててよ」
ひとづかいじゃなくて カラスづかいの荒いヤツだ！と 思いながら、
ボクは 手伝ってしまった。 パルが アジを食べようとしたとき、
頭上に 鳥の気配。 押さえていた足を 離して ボクは叫んだ。
「パル！ トンビだ！！ あぶない！！！」 パルが 見上げた瞬間、
サッと かすかな羽根の音を残して トンビが アジをつかんで逃げた。
ボクは ホッとした。 襲われなくて良かったぁ〜。 ところが・・・
「ちょっとぉ〜！ 待ちなさいよ！！ ワタシの魚 返せっちゅうの！」
恐いもの知らずのパルは トンビを追いかけて 飛び立った。
しょ〜がねぇ〜なぁ。 ボクも パルのあとから 付いて行った。
☆ ☆ ☆
「こらぁ〜！ ワタシのお魚、返せぇ〜〜！！ アンタ！ 名前を名乗りなさい！」
パルは ものすごいけんまくで トンビに向かって 怒鳴っている。
すると、ゆ〜ったりと 方向転換して こっちへやって来たトンビが
「タカだ！」 と 言った。 パルは 一瞬、ドキッとしたみたいだったけど
「な、なによ！ アンタ、トンビじゃないの！！」 と 言い返していた。
「名前は タカだ！ 文句があるか？ トンビのタカだ！」
「ふん！ ややっこしいわね〜。 魚、返してよ！ 」 「いやだね」
一言で 拒否すると、トンビのタカは また 方向を変えて 飛んでいった。
風に乗って さっそうと羽ばたくタカのあとを、パタパタ・チョコマカ付いて行く
パルを見ていたら、ボクは 急に おかしくなって 不覚にも
「カッカッカッカッ、アホォ〜〜」 って 笑ってしまった。
パルが それを聞き逃すはずはなく、ボクの方へ 突進してきた。
「クロったら ワタシがこんなに必死なのに・・・のんきに 笑ったわね。
取り返してもくれないし、タカと戦ってもくれないし・・・もう いいわ！」
勝手に 怒って、どこかに 飛び去って行った。 なんだぁ〜？ アイツ！
☆ ☆ ☆
何日か 静かな日が続いていた。 ボクは 釣り具屋さんちの ちっちゃな女の子と
遊ぶのが好きだ。 その女の子は お店から 魚釣り用のエサをにぎりしめて出てくる。
両手を グーにしたまま、 ボクの前に差し出して こう言うんだ、
「エビちゃん、どっち？」 って。 ボクは 右だなぁ〜って 思って
くちばしで 右手を ツンツンッて つっつく。 すると 女の子は 手をひらいて
「あったり〜！」 と 小さなエビを見せるんだ。 ボクは それを パクッ！
「うわぁ〜ん！ 食べちゃった！！」 泣きながら お店に入っていくのと同時に
ほうきを持った おやじさんが 飛び出してくるのさ。 こわい顔して
「こっらぁ〜〜！ うちの子を泣かしたのは おまえカァ〜〜？！」 と怒鳴る。
ひょっとしたら このおやじさんのほうが カァ〜って鳴き声、じょうずかも。
ボクは ゆっくりと 屋根まで逃げるんだ。 最初のうちは それも楽しくて
エビを食べては 女の子を泣かしていた。 ところが ある日、 あわてて飛び出してきた
おやじさんが 店先でころんで ケガしちゃった。 さいわい、ねんざっていう
軽いケガですんだみたいだけど それからは わざと答えをはずして つっつくことにした。
そしたら いつも 女の子は ごきげんだからね。
☆ ☆ ☆
ボクが パルのことを 忘れてしまいそうになる頃、 突然、さわぎは起こった。
釣り具屋さんの前で 女の子を待っていると、 港のほうで カラスの鳴く声がした。
パルのヤツ、また 何かしでかしたか？ ボクは 急いで 飛んで行った。
港では トンビが３羽、 気持ちよさそうに 円を描いて 舞っている。
その間を ちょこまかと パルが 飛び回っているのが見えた。 パルは
「ねぇ、 あんた、 タカ？」 と 聞いているようだ。 トンビたちは
「おれたちゃ、 どう見たって トンビだろ？」 とか、
「だいじょうぶかい？ カラスのおじょうちゃん！」 とか、
くちぐちに ピーヒャラ、ピーヨロと 笑っている。
「そんなこと わかってるわよ！ トンビのタカを さがしてんの！ おしえなさい！」
あいかわらず 恐いもの知らずのパルは、 ３羽を相手に デカイ態度だ。
「タカ？ あの タカさんか・・・。 知ってるぞ。 だけど 何の用だ？」
「そんなこと、 あんたたちに 言わないわ！」
なぜ、パルは タカをさがしてるのか、 ボクも 知りたかった。
「しょうがねぇなぁ。 おれたちに ついて来な！」 トンビたちは 山の方へ飛んで行った。
☆ ☆ ☆
港のはずれには 切り立ったがけがある。 がけの上の
こんもりとした林が タカのすみからしい。
「タカさんを 呼んでみな！ 姿を現わしてくれるはずさ」
トンビたちは そう言うと、港のほうへ くるりと旋回した。
「どうも ありがとう〜！」 パルは めずらしく きちんとお礼を言ってから
「コラ〜〜〜！ タカ！！ 出て来い！！！」 と 叫んだ。
少し離れて ついて来たボクは
『おい、そりゃ 呼び方を まちがってるだろ！？』 と ツッコミたくなった。
「タカ〜！ どこにいるの〜？！」 木かげから トンビのタカが 姿を見せた。
「なんだ、おまえか・・・」
「なんだじゃないでしょ！ 心配して 来てあげたのに」
「何が？ どう心配なんだ？」
「あんた、疲れてるみたいだからさ」
この前の騒ぎで パルは そんなことまで 感じ取っていたのか。
ボクは パルしか見てなかった・・・。
「よけいなお世話だ！ とっとと 帰りな！！」 タカは それだけ言うと
また、どこかへ消えて行った。
