◇月♪日 （気分は ガァ〜ン！のち ガッツ！） ボツ童話？号
「来週、おふくろが 遊びに来るってさ」
おとうさんが 電話を切って、言った。
「あら、そう。準備しておかなくちゃね」
エプロンで手をふきながら、おかあさんは 居間へやって来た。
「おとうさん、『おふくろ』って だあれ？」
ぼくは おとうさんの首にしがみつきながら聞いた。
いもうとは おかあさんに作ってもらった 遊び着入れのふくろを持って、
「ふくろ、ふくろ、ふくろ〜」と、おどっている。
「『おふくろ』っていうのは おかあさんのことさ。おとうさんの おかあさんは
おばあちゃん！ 田舎のおばあちゃんが 遊びに来るんだよ」
「やったぁ〜！ 来週のいつ？ あと いくつ寝たら？ ふくろ、ふくろ、ふくろ〜〜」
ぼくと いもうとは 『ふくろおどり』を へとへとになるまで おどった。
☆ ☆ ☆
「ちょっと見ない間に 大きくなったねぇ」
おばあちゃんが ぼくを ヨッコイショと 抱き上げながら言った。
「明日、ぼくたちと ようちえんに行ってくれる？おばあちゃん！」
ようちえんへのお見送りを おばあちゃんに ねだってみた。
「あぁ、いいとも。お迎えにも行こうかね。しょう君も あいちゃんも
おばあちゃんの手を引っぱって、歩くのを助けてちょうだいね」
「うん！ わたしは 坂道でおばあちゃんのおしりを押してあげるよ」
「ぼくは おんぶしてあげるよ！」
「え〜？ おにいちゃん、それは無理じゃない？ ためしに わたしをおぶってみてよ」
ぼくは いもうとをおんぶしようとした。
ヨロヨロッと後ろへ倒れそうになったので、おばあちゃんが ささえてくれた。
「ありがとう、おばあちゃん。ほら、あい！ 平気だったろ？」
「おにいちゃん、フラフラしてて こわぁ〜い！ おろして、おろして！」
「さ、ふざけてないで 早く寝ないと あした起きられないわよ」
ぼくの『おふくろ』は おんぶできそうもないと思った。
次の朝、ぼくたちは おばあちゃんと ようちえんに行った。
お迎えの約束も ゆびきりげんまんした。
そして はりきって教室へ入っていったんだけど・・・。
☆ ☆ ☆
やっと ようちえんの終わる時間になった。
おばあちゃんは 約束どおり 迎えにきてくれた。
「どうしたの？ しょう君の元気が 半分しか見えないぞ〜！」
おばあちゃんが キョロキョロしながら言った。ぼくは 元気をようちえんに落として
きちゃったこと、話そうか やめておこうか迷った。
「そうそう、おばあちゃん いいもの持ってきたのよ。
お家に帰ったら 見せてあげようかね」
ぼくは ちょっと元気がでてきた。いもうとといっしょに
おばあちゃんの手を引っぱって いそいで家へ帰った。
☆ ☆ ☆
おばあちゃんは おべんとう箱入れくらいの かわいいふくろを見せてくれた。
「これはね、しっぱいぶくろって言うんだよ」
「しっぱいぶくろ〜？」
「このふくろの中に手を入れて、しっぱいしたことを話すとね・・・やってみるかい？」
ぼくは 言われたとおり しっぱいぶくろに右手を突っ込んで、
ようちえんでのしっぱいを話した。
「お絵かきの時間にね、あやちゃんの うさぎの絵を見て、
『ヘンなの〜』って言ったら あやちゃん、泣いちゃったんだ。
ほんとはとっても かわいいうさぎの絵なの。『かわいいね』って 言えばよかったよ。
どうして 思ってることと反対を言ってしまったんだろう・・・」
おばあちゃんは ふくろの底を ごそごそ さわっていた。
すると、ぼくの手は あったかい手で しっかり包まれた。
「あやちゃんに『ごめんね』って あやまる勇気が しょう君には あるでしょ？
勇気がでたら、ぎゅって その手をにぎり返してごらん」
ぼくは あやちゃんに『ごめんね』を言いたかった。言わなくちゃいけないと思った。
あたたかい手をぎゅっとにぎったら ぼくと同じくらいの強い力で
その手もにぎり返してくれた。
☆ ☆ ☆
しっぱいぶくろの底には 大きな穴があいていたんだ。
おばあちゃんが 作ってるときに しっぱいしたんだって！
（おわり）
