＠月〒日 （気分は からっぽ） ボツ童話？号
カンカラカ〜ン！
「チェッ！ なんにもわかっちゃいないんだ！ ぼくのせいじゃないのに……」
男の子は そう言いながら、思いっきり わたしを け飛ばしました。
そう！ わたしは ジュースの空き缶です。さっき 車の窓から 投げ捨てられました。
それだって災難なのに、こんどは かべに激突です。
「もう、お家になんか帰らないからね……。 おかあさんなんて、嫌いだ！ あーちゃんも……」
『あ、また け飛ばされる！』 と思ったら、わたしじゃなくて 空気をけ飛ばしていました。
『もう あの子に 見つかりませんように』 男の子の後ろ姿を見送りながら そう祈りました。
ねこが ソロリソロリと 近づいてきます。
『わ、わたしは 空っぽよ！』 と必死で叫んでも、どうにもなりません。
ひっかかれるやら、なめられるやら、さんざんでした。
よちよち歩きの女の子が わたしを手に取りました。
「まぁ！ バッチィからダメよ！ ポイしましょうね」 おかあさんは わたしを
ゴミばこへ捨てました。 これで わたしも、少しだけ落ち着けるような気がします。
☆ ☆ ☆
夜になると、台風が近づいているせいか、風が強くなってきました。
電線が ヒュ〜ン、ヒュ〜ンと音をたてたとき、ゴミばこが倒れました。
ゴットン、ゴロゴロン。 カンカラカ〜ン！
強い風に押されて、わたしは どんどん転がりました。 その音におどろいた
どこかの家の犬が キャンキャンほえています。 わたしは ますますスピードを
あげて走って行きました。 公園の入り口に着くと ブランコに座っている人が見えました。
『あそこまで行きたい。風よ吹け！』 そう思っているときに限って、風は ピタッと
やんでいます。 やっとの思いで たどりつくと、そこには さっきの男の子がいました。
「チェッ！ お花の鉢植えをこわしたのは ぼくじゃない、あーちゃんなのに。
ぼくばっかり怒られる」 コンコロコン……。 男の子は また、わたしをけ飛ばしました。
☆ ☆ ☆
すっかり暗くなった公園は いつも遊んでいる場所とは ぜんぜんちがいました。
男の子は しげった枝が ザザザ〜っというたびに、まわりをキョロキョロ見回します。
それから わたしを追いかけてきて、また けりました。
コンコロコン……。 そのとき、暗やみの中から
「たかし！ こんなところにいたの？ 探したわよ。さ、雨が降り出す前に
お家へ帰りましょう」 と、声がしました。
「おかあさん！ ぼくじゃないんだ！ あのイタズラは あーちゃんが……」
かけ出そうとしたとき、わたしにつまづき 転びそうになった男の子を、
おかあさんは優しく抱きとめて 言いました。
「そうか、あーちゃんだったのね。 たかし、ごめんなさいね。帰ったら あーちゃんに
メッ！て しなくちゃね」
「あーちゃんは ぼくみたいに強くないから ちょっとだけ 怒ってね」
「ちょっとだけね……」 おかあさんは笑いながら 男の子の頭をなでました。
「こんな暗いところで 恐くなかったの？」
「平気さ！ この空き缶で、サッカーをしてたの」
わたしは『え〜？ そうだっけ？』と思いました。
おかあさんが わたしを拾って、ゴミばこに捨てようとしているとき、
昼間のことを思い出しました。『あのときの おかあさんだったんだ！』
一日に二度もお世話になるなんて……。
カンカラカ〜ン！
（おわり）
