伯氏H日 （気分は ルビー色） 週刊童話 第３号
サキちゃんの お引っ越しの日、レッツ５のケンちゃん、ショウタくん、ユウキくんは
公園で のんちゃんを待っていた。 のんちゃんが トボトボと 歩いてきた。
「おはよう・・・とうとう この日が 来ちゃったね」 元気を家に忘れてきたような
力のない声で のんちゃんが言った。 ユウキくんと ショウタくんが うなずく。
「なにショボンとしてるんだよ！ さよならじゃないだろ？！ いいか！ きょうは
ぜったい、泣くなよ！！ サキちゃんが つらくなるようなことも 言うなよ」
ケンちゃんが 怒鳴った。 泣くなと言ったケンちゃんの目は うるんでいた。
「ねぇ、わたしたちが にこにこしてたら、サキちゃんは 淋しいんじゃない？
サキちゃんが 引っ越しちゃうのを 喜んでるって 思わないかしら？」
のんちゃんが いつになく まじめに言った。 ユウキくんが 腕組みをしながら
「でも それくらいやんなきゃ、サキちゃんは いつまでも この町での生活から
離れられないような気がするな〜。 ショウタくんは どう思う？」 と 発言した。
「この町のこと 忘れなくても、サキちゃんなら きっと 新しいところでも
友達をつくって、楽しくやっていけると思う。 ボクたちは 淋しくなるよ・・・
って、涙で伝えたって いいんじゃないかなぁ〜」 ショウタくんは そういう考えだ。
意見は まっぷたつに割れた。 レッツ５の中では 初めてのことだった。
それは ５人から ４人に減ったことで、当然 起こりうることではある。
「ここで 結論が出るとも思えない・・・みんな それぞれ、自分の気持ちに
正直に サキちゃんを送り出そうね。 それでいいでしょ？ ケンちゃん！」
のんちゃんが ケンちゃんの顔をのぞきこむと、不満顔のケンちゃんは うなずいた。
☆ ☆ ☆
サキちゃんの家の前には 大きなトラックが止まっていた。 もう出発の準備はできていた。
サキちゃんの部屋の窓に いつものピンク色のカーテンはなく、庭のウサギの置物も
かたづけられていた。 明日から この庭で遊ぶこともないんだ・・・と ４人は思った。
「やっぱり、来てくれたんだぁ〜。 ありがとう！」 元気なサキちゃんの声がする。
みんな キョロキョロと声のしてくるところを捜した。 玄関じゃない。 庭でもない。
サキちゃんは トラックの後ろの車に もう 乗り込んでいた。 ４人は かけ寄った。
「元気でね、サキちゃん！」 「あっちでも がんばれよ！」 「手紙、くれよな！」
みんな いっせいにしゃべったけど、サキちゃんは ひとりずつに うなずいて
「のんちゃん、ユウキくん、ショウタくん、ケンちゃん・・・
いままで ありがとね。 行ってきまぁ〜〜す」
それだけ言うと 車は走り出して行った。 あっけない さよならだった。
「あいつ、泣かなかったな・・・」 ケンちゃんが ポツリと言った。
そのとき、ケンちゃんの手首の 青いガラス玉のブレスレットが
紅く光ったことに まだ 誰も気づいてはいなかった。
☆ ☆ ☆
のんちゃんたちの 小学校生活最後の 一年がはじまった。 クラス替えがないので、
５年生のときと なんにも変わっていない、 サキちゃんが いないことを除けば・・・。
「明日の 新１年生歓迎遠足、かなり 疲れるらしいよ〜」
学校帰りに のんちゃんが ぼそっと言った。 ショウタくんが うなずきながら
「遊園地の行き帰り、ずっと 手をつないでなきゃいけないんだろ？」 と 言うと、
「新１年って １ヶ月前まで、幼稚園ではしゃぎまわってたんだからな・・・すごいパワーだと
思うよ！ ユウキ、だいじょうぶか？」 と、ケンチャンは ユウキくんを見た。
「あぁ・・・ぼくには 小２の弟がいるもん。 慣れっこさ！」 自信まんまんで
ユウキくんが 答えると、みんな 元気いっぱいの弟を思い出して 笑った。
６年生になると、学校でも 家でも けっこう、忙しかった。 だから 登下校の間だけが
レッツ５の わいわい、がやがや、話せる 楽しい時間になっていたのだ。
桜の散ってしまった公園の前まで帰って来た４人は、おやつを買いに行く約束をして別れた。
☆ ☆ ☆
駄菓子屋さんには のんちゃんが 一番乗りだった。 くじを引くと、大きなアメ玉が当たった。
それを 口いっぱいにほおばりながら、遠足のおやつを選んでいると ケンちゃんが来た。
「いよっ！ こういうときゃ 早いんだな〜」 と のんちゃんの肩を ポンとたたく。
「ぐっ・・・ぐるじ〜」 のんちゃんが アメをのどにつまらせて じたばたしている。
「おい！ だいじょうぶかよ〜、下 向いてみろ」 ケンちゃんは のんちゃんの背中を
バシッと たたいた。 すると アメ玉が スポッと床に落ちた。 真っ赤な顔の のんちゃんは
「あ〜、苦しかった・・・。 痛いじゃん、ケンちゃん！ あ、じゃなくて サンキュ〜。
おばちゃん、ごめん！ アメ玉、もったいないことしちゃった」 と 一気にしゃべった。
「いいよ、いいよ、のんちゃん。 アメは これに包んで ゴミ箱に入れといで。
変わりに ちっちゃいけど、これを あげるから・・・」 駄菓子屋の おばちゃんが
にこにこしながら ティッシュと ちっちゃなアメ玉をくれた。 ケンちゃんが すかさず、
「よかったでちゅね〜、赤んぼ、のんちゃん！ ちゃんと お礼を言うんでちゅよ〜」 と
からかった。 おもてのゴミ箱から ますます 真っ赤な顔になったのんちゃんが戻ってきて
「こらぁ〜！ 赤ちゃん扱いするんじゃない！！」 と ケンちゃんのお尻をたたいてから
「おばちゃん、ありがとう〜。 おいしい！ このアメ・・・」 って 笑顔でお礼を言った。
ショウタくんと ユウキくんが やってきたのは、そんな騒ぎがおさまった頃。
「こいつが いっしょに行くって 聞かないもんだから・・・遅くなっちゃって」 と、
ユウキくんが 頭をかきながら言うと、その後ろから ユウキくんによく似たコーちゃんが
ピョコンと 顔を出した。 のんちゃんたちは そのかわいいしぐさに 思わずふきだした。
☆ ☆ ☆
「こんにちは！ おねえちゃんといっしょに おやつ、選ぼうか？」 のんちゃんが言うと、
「やだ！ ぼく、ケンにいちゃんがいい！」 と コーちゃんは ケンちゃんに飛びついた。
「そっか〜。 よし、いっしょに 買い物しような〜。 のんちゃん！ 恐いおねえさんより
優しいおにいさんが 好きみたいだよ、コーちゃんは・・・ガハハハハッ」 ケンちゃんが笑った。
「ハァ〜、明日の遠足・・・気が重いや」 のんちゃんは ガクッと 肩を落とした。
「これ！ ほら このガム、３つのうち、１つだけ すっごくスッパイのが入ってるんだよね。」
「そうさ、それを サキちゃんが 選んじゃってさぁ〜、あの時の うめぼしみたいな顔！」
「思い出した！ おもしろかったよね〜。 あれから、サキちゃんは このガム、買わなかった」
「元気にしてるかな〜？」 ４人は 急に静かになった。 黙って おやつを選んだ。
☆ ☆ ☆
歓迎遠足は なにごともなく、無事に終わろうとしていた。
のんちゃんが 行き帰りに手をつないだ新一年生は とても おとなしい女の子だった。
ケンちゃんの相手の子は 元気がありあまっている男の子だったけど、
それ以上に ケンちゃんのパワーがあった。 ユウキくんと新一年生は とても
話がはずんでいた。 ショウタくんは ただ、だまって 手をつないであげていた。
遊園地を出たところの みちばたで、ケンちゃんに声をかける人がいた。
「よう！ 少年！！ 彼女とは うまくやってるか？」 それは このあいだ
ペアのブレスレットを売っていた おにいさんだった。 ケンちゃんは ただ、
「はい、まぁ・・・」 と 答えた。 あれから サキちゃんと話してなかったし・・・。
「あれは 魔法のブレスレットなんだ。 彼女の涙が ブレスレットに落ちたとき、
君のブレスレットが 紅く光る・・・守ってやれよ！」
おにいさんは ポーンと ケンちゃんの肩をたたいて 笑った。
ケンちゃんは 信じられないというような ポカンとした顔しか できなかった。
☆ ☆ ☆
サキちゃんは 新しい小学校の６年生として、いっしょうけんめい がんばっていた。
お友達も 何人かできて、転校してきたころのように 淋しいと 思わなくなった。
「のんちゃんたちに 手紙、書こうかな〜」 サキちゃんは ひとりごとを言った。
今なら グチもこぼさず、明るい手紙を書けそうな気がした。
サキちゃんの机の上には 遊園地で撮った レッツ５の写真が 飾ってある。
ひとりひとりの 顔を見つめながら、ひとりひとりに 手紙を書いた。
「サキちゃん！ 郵便局、知ってる？」 おかあさんが サキちゃんの部屋に入ってきた。
「よく知らないけど・・・どうしたの？」 「いそいで この小包を 送りたいの」
「地図、書いてくれたら 私、行ってきてもいいわよ」 「ほんと？！ 助かるわ〜」
「みんなに書いた手紙も 出して来られるし・・・まかせて！」 サキちゃんは
地図を片手に 家を出た。 いつもの 通学路とは まるで 逆の方角だ。
「ここのたばこ屋さんを 左に曲がれば いいのかな〜？」 小包を入れた袋が重くて
持ちかえようとしたとき、地図を 落としてしまった。 そばを 通り過ぎた車が
その地図を 舞い上がらせ、風に乗って 飛んでいってしまった。
「あっ！ 地図が・・・」 ２、３歩 追いかけて、サキちゃんは 立ち止まった。
「たばこ屋さんで 教えてもらえば いいんだわ！」 やっぱり サキちゃんは
チャッカリしている。 教えてもらったとおりに行くと 無事、郵便局に着いた。
用事をすませて ふと 横を見ると、郵便局のなかの 片すみに 絵が展示してあった。
知らない名前の画家さんの 作品展だ。 学校の風景が 描かれている絵の前に立つと、
鈴木先生の絵を 思い出した。 サキちゃんの見ている絵は いつの間にか あのときの
あの絵になっていた。 気がつくと、郵便局の閉まる時間まで そこに立っていたようだ。
☆ ☆ ☆
郵便局を出て しばらく歩くと、サキちゃんは 来た道と違うことに気づいた。
「間違っちゃったみたい・・・引き返してみよう」 引き返したつもりだったが
どこまで歩いても 郵便局に戻れない。 サキちゃんは ちょっと 心細くなった。
あたりは 薄暗くなってきた。 そこは 人通りのない道だった。 会社が並んでいたけど
すでに シャッターが 閉まっている。 サキちゃんは 歩き疲れて しゃがみこんだ。
しっかりもののサキちゃんのほほを 涙が伝って 落ちた、いく粒も いく粒も・・・。
☆ ☆ ☆
ケンちゃんは、遠足から帰ってきて ボーッとしていた。 あの話は 本当なんだろうか？
「サキちゃんの涙が ブレスレットに落ちたとき、ぼくのブレスレットが
紅く光るんだって？！ そんなこと 信じろってのか・・・」 左手首に 青いガラス玉の
ブレスレットをつけながら、ケンちゃんは ひとりごとを言った。
夕陽に左手をかざしてみた。 青いガラス玉は オレンジ色の夕陽を吸収して 紅く光った。
「あれっ！？ 紅い？・・・」 しかし、それは 腕を下ろすと いつもの青だった。
「だよな〜」 ケンちゃんは ひとり、そうつぶやいて 勉強をはじめた。
☆ ☆ ☆
「よし！ きょうは これぐらいにしとこうか」 ケンちゃんは ペンを置いて、
大きく伸びをした。 ふと 左手に目をやると・・・
「なにぃ〜！？ 紅いぞ！！」 ケンちゃんのブレスレットが 紅く光っているではないか！
腕を下げても、角度を変えても、手のひらで光をさえぎって 覗いても、
ホッペをつねっても・・・どんなことをしてみても、今度は たしかに紅い！！
ケンちゃんは ころがるように 階段をかけおりて、台所のおかあさんに言った。
「サキちゃんに 電話しなくちゃいけないんだ！」 「どうしたの？ そんなにあわてて」
おかあさんは ガスの火を止めて、急いで アドレス帳を 開いてくれた。
ケンちゃんは 二度くらい、番号を間違えそうになって かけなおし、やっと つながった。
「あ、もしもし・・・サキちゃんのおばちゃん、こんばんは！ サキちゃん、元気ですか？」
「あら、その声は ケンちゃんね。 サキは お使いに行ったきり、まだ帰ってこないのよ。
暗くなってきたから、心配してたとこなんだけど・・・」
「おばちゃん！ サキちゃん、泣いてるんだ！！ きっと どこかで 困ってるんだ・・・」
「ケンちゃんには わかるの？ ま、いいわ、ほんとに 心配だから 迎えに行ってみるわね。
あとで、サキに 電話させるから・・・、ありがとね」
と言うと、サキちゃんのおかあさんは 電話を切った。
ケンちゃんは 紅く光ったままのブレスレットに触れながら 大きなため息をついた。
窓の外は もう 真っ暗で、スポットライトのような街灯が 浮かび上がって見えた。
☆ ☆ ☆
「もしもし、ケンちゃん？！ わたし、サキよ・・・こんばんは」
「こ、こんばんはじゃねぇ〜だろ！ 心配かけやがって」
安心したケンちゃんの目から 涙がこぼれた。
「ごめん・・・って、なぜ ケンちゃんに わかったのよ！ わたしが泣いてたの」
「ブレスレット、してるか？ 見てみろよ・・・理由がわかるから」
「ブレスレット？ してるけど。 ちょっと 待っ・・・えっ！？ 紅いわ！
緑色だったのよ、さっきまで・・・。 おかしいわ。 どうしちゃったの？」
「おれのブレスレットも 紅く光ったのさ。 だから・・・電話した」
「ちょ、ちょっとぉ〜。 今、わたしのブレスレットが 紅いのは・・・」
「バカかぁ〜！ うそ泣きしてみてやったんだぞ！！ 説明するより
わかりやすいだろうと思ってさ。 良かったよ、無事で・・・」
「涙で 紅く光るのね。 素敵なブレスレットだわ〜。 ケンちゃん・・・」
ケンちゃんのブレスレットが また、紅くなった。
「疲れたろ？ また、ゆっくり 電話するよ！ じゃぁ、またな」
「うん、きょうは ありがとう・・・」 ふたりのブレスレットは 紅かった。
遠いけれど、近い。 近いと思ってみても やっぱり遠い。
ふたりとも そんなことを感じていた。
☆ ☆ ☆
次の日、学校へ行く途中の話題は ブレスレットのことだった。
「へぇ〜、涙が落ちると 紅く光るのか〜。 不思議なパワーだね」
なかでも 一番 興味津々なのは のんちゃんだ。
「ね、ね、ケンちゃんのブレスレット、バラバラにしてさぁ・・・」
「ま、待てよ！ のんちゃんの考えてること、わかったぞ！！ 絶対、やだ！」
「ケチ！ いいもん。 また、遊園地に行こうよ〜」 のんちゃんは みんなを見た。
「とても、わかりやすい性格です！ のんちゃんは・・・」 ショウタくんが言った。
「アッ、ハハハハ〜」 ユウキくんの 大笑いにつられて、みんな笑った。
「遊園地もいいけどさぁ〜、夏休みになったら サキちゃんちへ行かないか？」
ケンちゃんが 思い切って、提案した。 一瞬、顔を見合わせた３人も
「さんせ〜〜〜い！」 と、飛び上がって叫んだ。
「サキちゃんには 内緒で 計画立てたいな」 「そうそう、驚かせてやろうぜ」
「楽しみだなぁ〜」 朝の 澄んだ空気の中に、レッツ５の笑い声が響いていた。
（おしまい）
