ケンちゃん、ユウキくん、ショウタくん、サキちゃんです。
５人は グル−プの名前を 『レッツ５（ご）』 と 名づけました。
それでは今から レッツ５の体験した たのしい世界に ご案内しますね。
冬休み、のんちゃんたち レッツ５の仲間は それぞれ お家のお手伝いや、宿題や、
自分の部屋のかたづけなんかで 忙しくって、なかなか 会う時間がなかった。
でも いくら年末で みんな 働かなくちゃいけないからって、子供たちから
遊びを取り上げてはいけない！ そろそろ のんちゃんたちは がまんの限界がきたようだ。
まずは ケンちゃん。夕食の材料の お肉を買ってくるようにたのまれたのに
なぜか、公園へ直行！ すべり台にかけ上がり 空に向かって ほえた。
「うわぁ〜〜〜ぉ！ あそびてぇ〜〜〜！！」 少しは すっきりしたのだろうか？
ブランコに座って、小さく揺れていた。そこへやってきたのは のんちゃん。
「なにしてんの？ ケンちゃん！」 「なにって、おつかいさ・・・」
「わたしは おばあちゃんちに 大根をもらいに行くとこ」
「そっか。で、なんで ここにいるんだよ？」 するどいツッコミ！
「それは ケンちゃんも おなじでしょ！」 ひるまず、ツッコミがえし！！
「みんな 忙しいんだよね・・・遊びたいね、いっしょに」 のんちゃんもブランコに座った。
「どっさり 雪が 積もらないかな〜？ そしたら あの 鬼のような
かあさんだって 遊びに行って来いって 言うに決まってるさ」 ケンちゃんが言った。
「雪ね・・・わたしも 雪が積もったら 遊びに来る！ みんなにも連絡しておこう」
「じゃ、おつかいに 行くか・・・またな！」 ケンちゃんは 立ち上がった。
「うん！ ばいばい！ はやく 雪、降れぇ〜〜〜！」
のんちゃんも さけびながら 公園から出て行った。
☆ ☆ ☆
お正月、待ちに待った雪が積もった。のんちゃんは おかあさんの声で 目をさました。
「のんちゃん！ 雪よ！！ はんぱじゃなく 積もってるわよ」
いつもなら なかなか 布団から抜け出せないのんちゃんも きょうばかりは
ドバッ！と起きて カーテンを開けた。あたり一面 レアチーズケーキのように
真っ白だった。いそいで 着替えをすませると 庭へ飛び出した。
「やったぁ〜！ ゆき、雪！ おいしそう〜」 のんちゃんは 雪の中へ倒れこんだ。
庭に のんちゃんの倒れたあとが いくつもできて、穴だらけ。
「そうだ。ごはんを食べたら みんなと 遊ぼう！」
お腹がすいているのを思い出して、のんちゃんは 家に入って行った。
☆ ☆ ☆
「オッス！ やっと積もったな。みんなに 連絡とれたか？」
ケンちゃんは もう 公園で待っていた。のんちゃんは 振り返って、みんなを捜しながら
「うん、連絡したよ。サキちゃんは 初もうでだから お昼からだって！」 と言った。
「やっぱ、雪だるまだよな。最初につくるのは・・・」 ケンちゃんは そう言いながら
もう 頭くらいの大きさになった 雪の玉をころがしていた。
「かまくらをつくって、ひみつ基地にしようよ！」 のんちゃんの提案に
「あのなぁ〜、公園のド真ん中のかまくらを ひみつ基地とは呼ばないの！！」
と ケンちゃんが ツッコミを入れた。のんちゃんは プッと ほっぺをふくらませて
雪だるまづくりに 加わった。そこへ ショウタくんと ユウキくんが
「あけまして おめでとう！ すっごい雪だね〜」 「今年もよろしく！ 雪合戦しないの？」
と 言いながら 走ってきた。 ケンちゃんと のんちゃんは 顔を見合わせた。
「雪合戦！！」 「そうだ！ それだ！！」 さっそく チームわけをした。
のんちゃんと ユウキくん。 ケンちゃんと ショウタくん。
のんちゃんチームの基地は 公園の入り口近くにある トイレの裏がわ。
ケンちゃんチームの基地は すべり台。 ２チームとも それぞれに 準備をはじめている。
雪玉をたくさんつくって 作戦をたてて、いよいよ 戦闘開始！
「いくぞ！ イチ、ニィ、サン、ダァ〜！！」 ケンちゃんチームは ふたりで攻めてきた。
「こっちも 行くわよ！ イッチ、ニ〜、サァ〜ン、ドゥァ〜〜！！」
のんちゃんが 突進していく。 ユウキくんは 雪玉を作って待っている。
かわりばんこに 攻撃する作戦だ。 のんちゃんが 公園の入り口にきたとき
ケンちゃんが投げた雪玉が 飛んできた。 すばやく しゃがんで
「へへ〜ん、そんな へっぽこ玉、だれも 当たんないよぉ〜」 と のんちゃんは 笑った。
でも ケンちゃんたちが のんちゃんの後ろのほうを見て かたまっている。
振り向いたのんちゃんが見たものは・・・顔に 雪玉を当てられた人。
「せ、先生！」 のんちゃんは 反射的に ケンちゃんチームのほうへ 逃げた。
☆ ☆ ☆
先生は 顔の雪を はらったあと、自分のほっぺを ポンポンッ！と ２度たたいた。
「す、鈴木先生、ごめんなさい！」 ケンちゃんが すぐにあやまった。
「先生、当てまして・・・じゃなかった 明けまして おめでとうございます」
のんちゃんは ひきつった笑顔で おじぎをした。 ユウキくんが
トイレの後ろから 走ってきて、ショウタくんといっしょに あいさつした。
「明けまして おめでとう ございます」 それを 聞いて、先生は 笑って答えた。
「はい、おめでとう。 今年も よろしくな！ しっかし 新年早々、大当たりだ！
みんなの姿が見えたから ちょっと 覗いてみようと思ったら・・・」
「ねぇ、先生 どこ行くの？」 のんちゃんは いつもよりパリッとしている先生を見て
コートを 引っ張りながら 聞いてみた。 先生は 乱れたヘアスタイルをととのえながら
「教えな〜い。先生の 秘密基地へ 行くのさ！」
「ヒミツキチ？！」 ４人は 顔を見合わせながら 言った。
「どこにあるの？」 「どんな 基地？」 「ひとりで 作ったの？」 質問ぜめだ。
「しゃべっちゃったら 秘密基地にならないだろ？！ じゃっ 行くかな。しっかり遊べよ！」
先生は 右手をかるく上げて、公園から 出て行った。
「気になるよね〜」 「後をつけるか？」 「ダメだよ、そんなの・・・」
４人は 雪合戦どころじゃなくなっていた。 ショウタくんが 言った。
「子供の秘密基地とは 様子がちがうと思うな。先生、スーツを着てただろ？」
「そろそろ お昼かな〜。午後からは サキちゃんも来るだろうし
そのときに考えよう！」 ４人は お昼ごはんを食べに 家へ帰って行った。
☆ ☆ ☆
午後、初詣でから帰ってきた サキちゃんも 加わって レッツ５、全員集合！
「先生の秘密基地、気にならない？」 のんちゃんは サキちゃんに
午前中のできごとを 説明したあとで そう言った。
「私、お昼前に 先生を見かけたわよ」 サキちゃんは 自慢げに笑った。
「え〜っ！」 「ほんと？」 「どこで？」 みんなは 続けさまにサキちゃんに聞いた。
「ちょ、ちょっと 落ち着いてよ！ あのね・・・小学校に入っていくとこを見たの」
「学校かぁ〜。 なるほどね・・・」 ショウタくんが うなづいた。
「今から 行ってみる？」 のんちゃんは 秘密基地発見に 意欲をみせている。
「きょうなら 校舎も 開いてるかもしれないね」 ユウキくんも 賛成のようだ。
「よし！ 行くだけ 行ってみようぜ！」 ケンちゃんは みんなの気持ちをまとめた。
☆ ☆ ☆
雪道を ムキュッ、ムギュッと 音をたてながら、５人が いつもの通学路を 歩いて、
校門の前まで来たとき、先頭の ケンちゃんが ふいに 立ち止まった。
「いってぇ〜」 のんちゃんは ケンちゃんの背中に 頭をぶつけた。
「ケンちゃん、どうしたの？」 サキちゃんが聞くと、人差し指を口に当てて
「シーッ！ 先生たちが 出てきた！！」 と ケンちゃんは 小声で言った。
「こっちへ 隠れよう」 ショウタくんが 電柱のほうへ走っていく。
みんなも あとに 続いた。 ５〜６人の先生が 校門を出て、
のんちゃんたちとは 逆の方へ 歩いて行った。 ユウキくんが 首をかしげて言った。
「鈴木先生、いなかったね」 「ってことは まだ 校舎の中かも！」 「行こう！」
レッツ５は 職員の通用口から 校舎に入って行った。 外と同じくらい冷たい空気の
廊下を ５人は 足音を立てずに 進んでいく。 のんちゃんが 聞いた。
「どこへ行く？」 「職員室かしら・・・」 「でも ほかの先生に 見つかっちゃうよ」
「う〜ん、どうしよう」 「図工室は？」 「なんで？」 「なんとなく・・・」
のんちゃんの ひらめきに、みんなは したがってみることにした。
３階の 図工室からは 灯りがもれていた。 ケンちゃんが のんちゃんの頭をたたいて
「案外、正解だったりしてないか！」 と 小声で 喜んだ。
☆ ☆ ☆
ケンちゃんに 意味もなく 頭をたたかれて、ちょっと 不満顔の のんちゃんが
「痛いなぁ〜、も〜！ さぁ、みんな、いざ！ 突撃〜♪」 と 元気良く 言った。
「突撃って なんだよ？ 戦いに行くんじゃないんだぜ！」 ケンちゃんが すかさず言う。
「あっ！ そうか。 じゃ、ゆっくりと まいろう！」 「のんちゃん、ふざけてないで」
サキちゃんにまで、おしりをたたかれて のんちゃんは ショボンとなった。
「見て！ 電気が消えた！！」 ショウタくんが 図工室を指さして みんなに知らせた。
「ほんとだ・・・。 間違いなく だれかいるんだ」 ユウキくんも 身を乗り出している。
「よし！ 行くぞ！！」 ５人は ケンちゃんを先頭に、図工室の入り口まで進んでいった。
のんちゃんが ドアに手をかけた。 スーッと 開けることができた。 みんなは なぜか
腰をかがめて、ちっちゃくなりながら入っていく。 抜き足、さし足って こういう動作だろうか？
そして 静かにしなくちゃいけないときは 決まって アイツが・・・
「ハックション！！」 「も〜、のんちゃんったら・・・」 「ごっめ〜ん」
やっぱり やっちゃった！ それならばと ５人は 普通に 捜し回ることにした。
「失礼しまぁ〜す」 「鈴木先生、いらっしゃいますか〜？」 「遊びにきました！」
なんと 大胆な 秘密基地捜査！！ でも どこからも 返事はなかった。
「おかしいなぁ〜？ ここの電気を消したのは だれだろう？ どこへ行っちゃったんだろう？」
「ねぇ、準備室のほう！ だれかいるんじゃない？」 サキちゃんが そう言いながら
近づいて行った。 ユウキくんが ゴクリと つばを飲み込む音が 聞こえた。
「失礼します！」 サキちゃんが 思い切って言ったけど、その声は 少し震えていた。
５人は 恐る恐る 図工準備室に足を踏み入れた。 もちろん また、抜き足、さし足で・・・。
☆ ☆ ☆
「だれもいませんかぁ〜？」 のんちゃんは さっきほどの元気もなく、小声で言った。
「だぁ〜れ〜だぁ〜！？ そこにいるのは！！！」 だれかが ５人に向かって 怒鳴った。
「ギャァ〜〜〜！！」 みんなは あわてて、図工室へもどって行った。
「せ、先生の声・・・だった？」 「お、覚えてないよ・・・どんな声だったか」
「もう一度、覗いてみるか？」 「ぼ、ぼくは ここにいるよ」 「も〜、ユウキくんったら」
そんなことを ゴチャゴチャと ささやいていると、準備室から 足音が聞こえてきた。
「はっはっは！ おどろいたか？ やっぱり！」 「す、鈴木せんせ〜」
５人は ホッとした。 ホッとしたら、腹がたってきた。 口々に 文句を言った。
「先生の いじわる！ なぜ おどかすんですか？」 と、一番でっかい悲鳴をあげたのんちゃん。
「どこに 隠れてたの？ 秘密基地って 図工準備室ですか？」 と、勇気あるサキちゃん。
「ぼく まだ、ドキドキしてるよ・・・心臓が止まっちゃいそうだった」 と、ユウキくん。
「図工室の電気を消したのは ぼくらの声が聞こえたからですか？」 と言うショウタくんにつづいて
「電気を消しちゃったから、バレたんだよ、先生！」 ケンちゃんも 勝ち誇ったように言った。
「みんな、無断で 学校に入ったのか？ しょうがないヤツらだなぁ〜。
まぁ、きょうのところは 先生が みんなを呼んだことにしておこう」
先生は 落ち着いていた、 秘密基地を レッツ５に 見つけられちゃったのに・・・。
「先生！ ここで なにをしてたの？」 「ん？ それは 秘密だ！」
「え〜っ！？ もういいじゃん！ 話してよ〜」 「真面目な話なんだ。 おとなしく聞けるか？」
「はぁ〜い！」 ５人は 声をそろえて言ったけど、ほんとに 真剣に聞けるのだろうか。
☆ ☆ ☆
「こっちに来てみるか？」 先生は 図工準備室のほうへ歩きながら 言った。
「はぁ〜い！」 ５人は 期待で わくわくしながら、先生について行く。
「何があるんだろうね〜」 「すっげぇカッコイイ、ロボットかなんかじゃねぇか？」
「秘密の抜け穴の 入り口かも・・・」 「真面目にお話、聞かなくちゃね！」 「そうでした！」
そんなことを話しながら、準備室に入ると、先生は 隅っこから 大きな絵を 抱えてきた。
掛けてあった白い布を取ると そこには のんちゃんたちの授業風景が描かれていた。
「うわぁ〜、すごい！ これ、先生が描いたの？」 のんちゃんが 聞くと、
「あぁ、そうだよ。 みんなは 西田先生を知ってるだろ？」 先生は絵をながめながら言った。
「知ってる！ 去年、６年生の担任だった 西田 守先生でしょ？」 サキちゃんが答える。
「実は 僕も 西田先生に 教わったんだ、小学生のとき・・・」 「へぇ〜」
「学校を退職されて、体調が良くないってうかがってたから 励ますつもりで
この絵を描き始めた。 けど、今日 入院なさったと 連絡があって・・・」
先生の声が いつもと違っていた。 何かを我慢して、震えている。 でも、続けて話してくれた。
「僕も 他の先生方といっしょに お見舞いに行きたかったけど、この絵を仕上げるほうが
さきだと思ったんだ。 昔の授業の様子は 思い出せないから、今の風景だけど・・・」
「先生は 西田先生みたいな先生に なりたかったんですか？」 ショウタくんが聞いた。
「そうだな・・・。 先生のそばにいると 暖かかったんだ、心まで。 どうしてかな〜？」
絵の中の先生は、鈴木先生じゃなくて 西田先生だった。 その絵に向かって、
問いかけているような先生の話し方に、思わず ユウキくんが 答えていた。
「先生のそばも あったかいよ！ ぼく、先生が 好きだから・・・」
「そうよ！ 大好きな先生が そばで 見ていてくれるだけで 安心するもんね〜」
のんちゃんが ケンちゃんのほうをのぞきこみながら そう言うと、ケンちゃんは あわてて
「で、もう 絵は完成したのかよ？ 先生！」 と 涙をふきながら 聞いた。
「心配して 泣いてくれてるのか？ いいとこあるなぁ〜、ケン！ 絵の完成は もうすぐだ。
子供たちの表情を なんとかしたいんだ。 もっと いきいきと・・・」 と 言って
先生は ケンちゃんの頭を グチャグチャに なでた。 ケンちゃんの顔は 泣き笑いになった。
「先生！ ３学期が始まったらすぐに、その絵を 教室で描いたらいいよ！
私たち、とっておきの笑顔で モデルになってあげるから・・・」 のんちゃんにしては
グッド・アイデアだった。 他の４人も 大賛成した。 ちょっと困った顔で 先生は言った。
「気持ちは うれしいが そういうわけには いかない。 じゃ、写真だけ撮らせてもらおうかな」
みんなの肩を ポンポンたたきながら笑った、 ちょっと淋しそうだった先生が・・・。
☆ ☆ ☆
３学期が始まった。 鈴木先生は 約束どおり、カメラを持って 教室に入ってきた。
「入院中の 西田先生に、授業風景を描いた絵を プレゼントしたいんだ。
と、言うか・・・もう 作品は ほぼ完成しているんだが、生徒たちの表情が
上手く描けない。そこで みんなに協力してもらいたいんだ。 いきいきした顔を
ぜひ １枚、撮らせて欲しい。 じつは 西田先生は 僕の小学生時代の先生でもあるんだ」
「いいよ、先生！」 「かっこよく描いてね〜」 「完成したら ぜったい見せてね！！」
生徒たちは 賛成してくれた。 先生は とてもうれしそうに 言った。
「みんな どうもありがとう。 じゃ、のんちゃんは 給食の時間のような顔で たのむよ」
「も〜、先生ったら・・・。それを言うなら 体育の時間のケンちゃんの顔でしょ！！」
「アハハハ、まぁ、どっちも 似たようなもんだ。 さてと、こっちの角度から撮ろう」
先生は カメラのファインダー越しに、みんなの顔を 見てみた。 生徒たちは
いっせいに カメラに向かって、Ｖサインをした・・・サキちゃん以外は。
「おいおい、みんなは 黒板のほうを見て、授業を受けてる顔をしててくれなきゃ」
「はぁ〜い」 「こんな感じ？ 先生」 「ユウキは、いつも寝てるじゃん！」 「撮るぞ！」
カシャッ！ やっと 教室が 静かになった。 みんな いきいきした顔で 写真におさまった。
「サキちゃん、どうした？ さっきから 元気ないなぁ〜と思ってたんだ」 先生が聞いた。
「先生、絵は いつ完成する？ ３学期が 終ってしまわないうちに できる？」
サキちゃんは 今にも 泣き出しそうだ。 みんなも サキちゃんのまわりに集まってきた。
「わたし、転校しなくちゃいけないんだって！ ４月に お引越しするの・・・」
「え〜っ！？」 おどろきの声が 上がった。 とりわけ レッツ５の びっくりした顔。
「朝、いっしょに登校したときは そんな話、してなかったじゃん！」 のんちゃんが言うと、
「だって、まだ ３ヶ月くらいあるし、言おうかどうしようか、迷ってたんだもん」
サキちゃんは がまんできずに 机にうつぶせて、泣き出してしまった。
「そうか・・・、サキちゃんは 今学期いっぱいで 転校なんだね。 がんばって
話してくれて ありがとう。 僕も がんばって、絵を描くから・・・間に合わせるぞ！」
先生は サキちゃんの肩に手をのせて、やさしく言ってから みんなに話しかけた。
「さっ！ 席について！！ みんな、いい３学期にしような！ ケン、気合入れてくれ！」
「おうっ！」 ケンちゃんが 立ち上がって、先生のそばへ 走って行った。
「よっしゃ！ しんみりは もう おしまい！ メソメソしながら過ごすより、
笑って過ごしたほうが 楽しいに決まってるさ。 みんな！ サキを盛り上げていこうぜ！
いっち、にぃ〜、さぁ〜ん、ダァ〜〜！！」 全員が 右手を突き上げた。
☆ ☆ ☆
それから、毎日 楽しい日がつづいた。 みんな 普通どおりだった。
特別扱いしたり、優しくしたりすると、サキちゃんは 泣き虫モードになっちゃうから。
１月、２月は あっという間に過ぎていき、３月になった ある日・・・。
「あと、１ヶ月か〜」 学校帰りに のんちゃんが ぼそっとつぶやいた。
ケンちゃんが のんちゃんの頭を 思いっきり ひっぱたくと、
のんちゃんは あわてて 口をふさいだ。 サキちゃんは 目をうるうると光らせ、
「最後に・・・、最後の・・・春休み・・・」 と、消えてしまいそうな声で話はじめた。
「遊園地に 行かない？ ５人で・・・。 いい思い出をつくりたいの・・・」
「なに言ってんの！ 最後じゃないでしょ、次の 夏休みも 冬休みも・・・
会おうと思えば いつだって 会えるじゃない！」 のんちゃんは せいいっぱい笑った。
「そうだよ。 思い出なんて わざわざ作らなくても・・・ぼくたちに さよならはないんだ」
ユウキくんが いつになく、力強く言った。 ショウタくんも うなずきながら
「ぼくも おんなじ意見！ だけど いいと思うよ、遊園地。 ５年生最後の春休みの
思い出作りに・・・。 ほら、去年は ４年生最後だからって 公園でお花見したろ？」
と、みんなに 提案した。 ケンちゃんは 黙っていた。 いつもなら こういう場面で
みんなの意見を まとめるはずなんだけど・・・。 今度は のんちゃんが、
ケンちゃんの頭を 思いっきり ひっぱたいた、 たたいた手が痛くなるほど。
「いってぇ〜〜！ 何すんだよ、のんちゃん！！ お、おれの意見か？ おれは・・・
遊園地、大賛成〜。 春休み、最初の 土曜日でどう？ みんな 他の予定を入れるなよ」
ケンちゃんが 独断で決めたことだけど、みんなも 不満はなかった。
「オッケー！ 土曜日だね。 詳しいことは もう少しあとで決めても だいじょうぶだね」
「わぁ〜ぉ、楽しみだなぁ〜。 わたし、お弁当 作っていこうか？」
「えっ？！ のんちゃんの手作り弁当？？ ぼくは えんりょしとくよ・・・命が大事！」
「もぉ〜、なによ！ ショウタくん！ たぶん、おいしいってば・・・」
「たぶんだって！」 ユウキくんが サキちゃんのほうを見ながら 言った。
「みんな ありがとう！ うれしい！！ わたしも お弁当を がんばって作っちゃおう」
サキちゃんに 笑顔がもどった。 ケンちゃんは あいかわらず ボーッとしていた。
公園の前まで 帰ってきた。 そこからは みんな 別々の方向へ 走り出す、
「じゃ、また明日。バイバイ！」 の声だけを 公園に残して・・・。
☆ ☆ ☆
３学期の終業式が終って、教室にもどると 鈴木先生が みんなの通知表といっしょに
おおきな絵をかかえて 入ってきた。 先生は いつもより もっと にこにこしていた。
「先生、完成したの？」 「見せて、見せて！！」 「約束どおりだったね、先生！」
みんな 絵のまわりに集まってきた。 白い布がかけられていて まだ、見えない。
「先生！！ 早く 見たいよ〜」 「わかった、わかった！ さ、席について」
先生の指示に こんなに サッと みんなが従うことは めったにない。
「お待たせしました！ やっと 納得のできる絵に 仕上がりました。 ジャ〜ン！」
白い布が 取り払われると、そこには みんなの 生きいきした顔が 描かれていた。
のんちゃんたちは その絵の中の子供たちとおんなじような キラキラした目で
先生の絵を見つめていた。 だれも 声を出せなかった。 ケンちゃんが
ゴクッとつばを飲み込む音でさえ 教室にひびくくらい 静かだった。
「ど、どうした？！ ダメか？ この程度じゃ・・・」 先生は 不安になったらしい。
「すごいよ・・・」 ショウタくんが まばたきもしないで つぶやくと、
教室中から 歓声が上がった。 それは ド〜ッという音になって 先生の耳に届いた。
「先生、コッホよりも 上手いぞ！」 ケンちゃんが 立ち上がって言うと、
「コッホじゃなくて、ゴッホだよ！」 と となりの席の ユウキくんにツッコまれた。
「わたしたちの顔が、なんて言ったらいいか・・・その・・・すごく素敵に
描かれてるわ、先生！ わたし、きっと ずっと忘れないと思う・・・ありがとう」
サキちゃんは 感動して 泣くことを忘れているのだろうか？ 明るく そう言った。
「先生！ この絵を見たら 西田先生も きっと 元気が出るね！！」
のんちゃんの その言葉に、先生は 大きくうなずくと みんなに向かって話し始めた。
「サキちゃんは ６年生の教室には いないけど、この絵の教室の中では ずっと
みんなといっしょです。 新しい学校でも お友達がたくさんできるでしょう。
だけど もし、淋しいと思うことがあったら この絵を思い出してくれると うれしい。
みんなも そうだよ。 これから先、ひとりぼっちだ・・・と 感じることがあったとき
目を閉じて このクラスのみんなの顔を思い浮かべてごらん。 きっと元気になる・・・」
みんな 目を閉じてみた。 こうして ５年生の３学期は 静かに終了した。
☆ ☆ ☆
「明日、何時に集合するの？」 のんちゃんは 学校帰りに ケンちゃんに聞いた。
「そうだな〜。 マジで 弁当作るのかよ？ のんちゃんと サキちゃんは・・・」
「そのつもりよ、わたしは！」 サキちゃんは のんちゃんのほうを見ながら言った。
「わ、わたしだって そのつもり」 のんちゃんは 伏目がちにボソボソとつぶやいた。
「じゃっ！ １０時に公園に集合だ！ 寝坊しても 弁当が作れるだろ？」
「ご心配おかけしまして・・・」 のんちゃんは 笑いながら ペコリと頭を下げた。
「明日は 雨の心配もいらないみたいだし、ぼくが カメラを持ってくからね」
ユウキくんが言うと、ショウタくんは サキちゃんを気にしながら 続けた。
「ポラロイドだもんな、ユウキくんのカメラは。 じゃ、ぼくは 電車の時間 調べておく」
いつものことだが レッツ５の役割決めは てきぱきと行なわれていく。
「ケンちゃんは・・・みんなをまとめる役でしょ？」 サキちゃんが 笑って言った。
「こら！ ケン！！ 聞いてんのかぁ〜？」 のんちゃんが ケンちゃんの
お尻をたたいた。 どうも 最近のケンちゃんは ボーッとしている。
「ん？ あっ、あぁ・・・じゃ、そういうことで・・・明日な！」
そういうことって・・・わかってるの？ って顔をして みんなが いっせいに笑った。
ケンちゃんも なんとなく 笑った。
☆ ☆ ☆
「いっけなぁ〜い！ 遅刻、遅刻！！」 のんちゃんが 子供部屋からころがり出てきた。
９時５０分・・・顔を洗って 台所へ行くと、そこには ５人分のサンドイッチが置いてある。
「ふぁ〜、ありがとう、おかあさん！ 大好きだよ！！ よかった、たすかった・・・
いってきまぁ〜〜〜す」 息つぎもせずに しゃべりまくると のんちゃんは飛び出して行った。
公園には もう みんな集まっていた。 ケンちゃんが ニヤニヤしながら言った。
「１０時集合にしといてよかっただろ？みんな！ のんちゃん、オッス！！」
「おはよ〜、みんな！ お待たせしちゃった？」 「ギリギリ・セーフだよ。 さっ！行こう」
ショウタくんが うで時計を見ながらそう言うと ケンちゃんは サキちゃんの荷物を半分持った。
「あ、ありがとう。 がんばって お弁当、作ってきたわよ」 サキちゃんは ニコッと笑った。
それを見ていた ユウキくんは のんちゃんの荷物を手伝った。 のんちゃんは ピクッとした。
「のんちゃんも がんばったんだろ？」 「え？！ あっ！ う、うん・・・」
☆ ☆ ☆
遊園地は 混んでいた。 のんちゃんとサキちゃんは ジェット・コースター乗り場のほうへ
走り出した。 そのあとを ショウタくんとゆうきくんが 追っかける。
「ケンちゃんも 早くぅ〜」 「お、おれは いいよ。 荷物、持っててやるから行ってこいよ」
「え〜っ！？ ケンちゃんも 乗らなきゃ、つまんないじゃない」 「そうだよ〜」
「ひょっとして、怖いのか〜？」 「ち、ちがうよ。 とにかく ここで待ってるから・・・」
４人は ケンちゃんを そこに残して、乗り場に並んだ。 ケンちゃんは ポケットから
ちっちゃいカメラを取り出すと、レッツ５のみんなの写真を撮り始めた。 のんちゃんを パチリ！
ショウタくんとユウキくんを シャキーン！ そしてサキちゃんを パチッ！パチリ！シャキーン！
そのあとも ５人は いろんな乗り物に乗った。 遊び疲れて 木の下にシートを引いたのは
午後１時を過ぎたころ・・・いよいよ お弁当タイムだ。 サキちゃんが 大きなお弁当箱を
開くと いろんな色のおにぎりと 唐揚げ・ウインナー・卵焼きなどのおかずが どぉ〜んと
目に飛び込んできた。 男の子たちは ゴクリとつばを 飲み込んだ。 サキちゃんは
「さぁ、どうぞ！ 朝６時に起きて、作ったんだから〜。 味は 自信ないけど・・・」 と、
みんなに すすめた。 のんちゃんも サンドイッチを バッグから出した、控えめに・・・。
「うっまそ〜。 これ、み〜んな サキちゃんと のんちゃんが作ったの？」
「いっただきまぁ〜す！」 「おい！ ちょっと 待てよ！ お弁当といっしょに 写真撮ろうぜ！」
「さんせ〜い！！」 「ぼく、シャッターを押してくれる人、見つけてくるよ」
ユウキくんは そう言うと 自分のポラロイド・カメラを持って 駆けて行った。
「ハイ！ チーズ！！」 とびっきりの笑顔で 記念撮影は 終った。
「さぁ！ 食べましょ。 のんちゃんのサンドイッチ、何が入ってるの？」 サキちゃんが聞いた。
「え？ あ・・・いろいろよ」 「あやしいなぁ〜。 これ、うますぎないか？？」
ケンちゃんが 冗談っぽく言うと、のんちゃんは ペコッと 頭を下げて みんなにあやまった。
「ゴメン！ やっぱり わかる？ わたし、寝坊しちゃって・・・おかあさんが 作ってくれたの」
「ゲッ！ マジかよ・・・冗談のつもりだったのに」 それでも ケンちゃんの目は笑っていた。
「よかったよ。 こんなにおいしいサンドイッチ、食べられて・・・のんちゃんのだったら・・・」
と、言いかけて ショウタくんは 口に手を当てた。 のんちゃんが にらんだからだ。
☆ ☆ ☆
楽しい時は あっという間に過ぎていった。 そろそろ 帰る時刻だ。
遊園地を出たところのみちばたで アクセサリーなどの小物を 売っていた・・・、
長い髪の毛を 後ろでひとつに束ね、ひざのあたりに穴の開いたジーパンをはいた おにいさんが。
「これ、すてき〜」 サキちゃんが みどり色のガラス玉でできた ブレスレットを
指さしていった。 ケンちゃんは 値札を見てから、財布をとりだした。
「これ、ください！」 「おぅ！ ありがと！！ こっちの青とペアなんだけど どうだい？」
おにいさんは 不思議な笑い方をした。 吸い込まれるような笑顔に 思わず うなずいた。
「しあわせにな！」 また、わけのわからない力を 受け取った気分になった。
「ほら！ これ、やるよ。記念に・・・」 ケンちゃんは サキちゃんに さっきの
みどり色のブレスレットを差し出した。 のんちゃんも 両手で 受け取るような格好をして
「ありがとう〜。 青は わたしね！」 と お礼をいった。 ケンちゃんは ベーッと舌を出し
「これは おれのだよ〜」 と それを手首につけながら言った。
「も〜、ケチィ！！」 のんちゃんは 笑いながら ケンちゃんのお尻を叩いた。
つられて みんなも 大声で笑った。 ケンちゃんは サキちゃんの手首に つけてあげた。
「似合ってるぞ！」 「ありがとう・・・」 ふたつのブレスレットは 光を増したようだった。
