☆月●日 （気分は 月夜の奇跡） ボツ童話？号
「あの花は どんな顔をしてるのかな？」
昼間のお月様は気になってしかたありません。
それほど大きくない家の それほど大きくない庭に咲く、背の高い花のこと。
「明日は こっちを向いてくれるかしら」
でも、次の日も その次の日も、あの花は 反対側の空でかがやく、
お日様のほうばかり見ていました。
☆ ☆ ☆
「あっちの花は いつも 眠ってばかりだ」
お日様にも 気になっている花がありました。
それほど大きくない川の それほど広くない河原に咲く、うつむいた花のこと。
「明日は 目をさましてくれるかな」
でも、次の日も その次の日も、あっちの花は 花びらを開いてはくれませんでした。
☆ ☆ ☆
ある日、沈む前のお日様と 昇ったばかりのお月様は、夕方の空をはさんで 話をしました。
「お日様は あの背の高い花を 毎日見ることができて、うらやましいな」
「あの花は、いつも ぼくの方を見ているんだよ。
大きくて、見ているだけで明るい気持ちになれるんだ」
「どうして 一度もわたしの方を見てくれないのかしら？」
「お月様は あっちのうつむいている花を 毎晩見ることができて、うらやましいよ」
「あっちの花は、お日様が沈むころに そっと開き始めるの。
ふわっとした花びらで、見ているだけでホッとした気分になれるのよ」
「どうして ぼくが沈んだあとで 咲き始めるんだろう？」
☆ ☆ ☆
また、別の日。朝からずっと 黒い雲が空をおおって、お日様は
あっちのうつむいてる花を見ることができません。
「きょうは 雲にかくされたまま、沈んでいくんだろうか、ぼく」
と、そのとき 少しだけ雲がちぎれたのです。
お日様は もう沈んでしまう寸前だったけれど ちょっぴり背伸びして、
雲のすき間から あの河原を見ました。
「さ、咲いてるぞ！ なんて柔らかな花な……」
最後までしゃべらないうちに お日様は 沈んでしまいました。
その様子を 反対側の空で見ていたお月様は 優しく笑っています。
☆ ☆ ☆
「わたしも あの背の高い花を見たいなぁ」
毎日、そんなことばかり考えていたお月様は、だんだん やせていきました。
「あんまり 考え込まないで、お月様。ふとした瞬間に チャンスは おとずれるさ」
「お日様、ありがとう。そうよね、いつか見ることができるわね、きっと」
昼間は セミがにぎやかに鳴いて、あいかわらず あの花は お日様を見てばかりです。
夜は コオロギがかろやかに鳴いて、河原の花は お月様を ホッとさせてくれます。
おかげで お月様も ふっくら まぁるくなってきました。
☆ ☆ ☆
雲のない夜空に お月様が 明るくかがやいています。
それほど大きくない家の それほど大きくない庭に咲く あの背の高い花は
お日様が沈んだあと、しょんぼりと 肩を落としているようでした。
それほど大きくない川の それほど広くない河原に咲く花は、
お月様を そっと はげますように、風にゆれています。
まんまるになったお月様は せいいっぱいの暖かさを あの背の高い花にそそぎました。
「お日様の明るさには かなわないけれど、せめて 一度、ふりむいてくれないかなぁ」
お月様を映している川は かがみのように静かです。川の中の自分のすがたを見つめて
「やっぱり わたしは 月なんだなぁ」
もうすぐ沈まなくてはいけない……そう思いながら、もう一度 背の高い花を見ました。
「まぁ！ そういう顔の お花だったのね。 大きくて、大きくて、お日様のようだわ！」
☆ ☆ ☆
「わたしも あの花のお日様になれたのよ」
「へぇ〜、がんばったな！」
明け方の空をはさんで、沈む寸前のお月様は ちょっとだけ頭をのぞかせたお日様と
話をしています。 お月様は お日様の光を受けて、かがやくものなのです。
そして さっきまで 今までで一番強い光を お月様に投げかけていたこと、
うれしそうにしているお月様には ないしょにしておこうと、お日様は思ったのでした。
（おわり）
