＊月※日　　（気分は　吹雪　のち　春一番）　　日刊童話２号

『冬眠中です』

ぼくは　もうず〜っと　この穴でねむっている。

いつまで　こうしていなきゃいけないんだろう？

そろそろ　飽きてきたなぁ。　思い切って　外に出ちゃおうか・・・。



もぞもぞ動いてみる。土って　こんなに　暖かいんだ。

おかあさんに　気づかれないように、そっとね。

ちょっとだけ　遊んでくるから・・・。



外は　雪が降っていた。　寒い！　今まで　暖かい土の中だったから

よけいに　寒く感じるんだね。　やっぱり　穴に　もどろう。

おかあさんが　まだ　眠っているといいなぁ・・・。



「なにしてるの？」　おかあさんは　目をさましていた。

「ちょっと　動いてみただけだよ」　ぼくは　外に出てみたことを

ないしょにした。　それなのに　おかあさんは　知っていたんだ。



「うそ　おっしゃい！　外に　出ちゃったのね・・・」

どうして　わかったんだろう？　ぼく　冷たくなったかなぁ。

「なが〜い背中に　雪が　ふんわり、積もってるのよ」

☆　　　　　☆　　　　　☆

「ハックション！」　ぼく、雪のおみやげを持って来ちゃったのか・・・。

「おかあさん、ごめんなさい。じっとしてるのに　飽きちゃったんだ」

「正直に言わなくちゃ　ダメよ。　さぁ、暖めてあげるから　おいで！」



おかあさんに　くっついていると、また、眠くなってきた。

ぼくは、おかあさんに心配をかけてしまったことを　おぼえていられるかな？

あぁ、このまま　楽しい夢を見ちゃったら　きっと　忘れてしまう！



ぼくは　暖かい南の国にいた。　大好きなカエルが　いっぱいいるぞ！

パクッ！　ゴクッ！　う〜ん、ちょっと　にがいけど　そこがたまらない。

バクッ！　ゴックン！　今のは　でっかかったなぁ。おいしい！！



こんどは　これだ！　パックン！　つ、つめたい！！　ペッペッ！

なんだろう？　雪だ！　うわぁ〜〜〜、雪ガエルに　かこまれたぁ〜〜〜！

あわてたボクは　自分で　ちょうちょ結びになってしまった！　ぐ、ぐるしい・・・。



あせをかきながら　ぼくは、目をさました。おかあさんの頭が　ぼくの上に

のっかっていた。　夢だったのかぁ〜。雪ガエル・・・いないよね？

ぼくは　注意深く　まわりを見渡した。　なんだ？！　あれは？

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

雪ガエルだぁ〜！　ぼくは　おどろいて　腰を抜かしそうになった。

ぼくの腰が　どこにあるんだかは　知らないけれど・・・。

白いカエルが　ピョコタン、ピョッコン、こっちへ近づいてくる。



あれぇ？　おかしいぞ！　カエルが　はねるたびに　白い雪が落ちて

茶色のからだが　見えてきた。　なぁ〜んだ。　ほんものの　カエルだ！

安心したら　お腹がすいてきた。　ちょうどいいや　この　ごちそう・・・。



カエルは　立ち止まった。　身のきけんを　感じたらしい。

でも　おそるおそる　話しかけてきた。　声が　ふるえていた。

「こんにちは！　オレも　ずっと　寝てるのに飽きちゃったんだ。遊ぼ！」



ごちそうといっしょに　遊んだっていうこと、おかあさんが聞いたら

　 なんて言うだろう。　また、ぼく　しかられちゃうなぁ〜。

「いいけど・・・、きみは　ぼくが　こわくないの？」



「ちょっと　こわいよ。　でも　お友達になってくれたら　こわくなくなるさ」

ぼくは　雪ガエル・・・じゃなかった、この　カエルと　お友達に

なれるのかしら？　おいしそうだし、動きも　にぶそうだし・・・。

☆　　　　　☆　　　　　☆

「いいよ、何して　遊ぼうか？」　食べたいっていう気持ちを

グッと　がまんして、ぼくは　カエルに　言った。

「とっておきのたからものを　持ってきたんだ」　カエルは　ぼくに差し出した。



それは　まあるい石ころだった。　ピカピカにみがいてあって

カエルが　大切にしてるんだな〜って　よくわかった。

「きれいな石だね。　それを使って　遊ぶの？」　ぼくは　わくわくしてきた。



「これをころがして、受け取れなかったら　１点、取られちゃうんだ」

「何点取られたら、負け？」　「そうだなぁ〜、１０点にしよう！」

せまい穴の　入り口がわが　カエル、おくのほうが　ぼく・・・。



「ころがすよ〜」　カエルは　ピカピカの石を　ぼくの方にころがした。

石は、最初ゆっくり動いていたけど　だんだん　はやくなってきた。

ぼくの目の前を　すごいスピードで　通り過ぎて行ってしまった！



「はい！　オレが　１点！！」　カエルは　右手をあげて言った。

「よし！　今度は　ぼくが　ころがすよ〜」　しっぽを使って

思いっきり　力強く、ピカピカの石を　ころがした。



石は　最初すごいいきおいで　ころがっていたけど　だんだん　おそくなってきた。

カエルの目の前にきたときには　ほとんど　止まりそうだった。

「えいっ！　つかまえた！！」　ぼくは　１点、取れなかった。がんばるぞ！

☆　　　　　☆　　　　　☆

「オレのばんだね、ころがすよ〜」　カエルは　石ころに　ちょんとふれただけだ。

すると　また、だんだん　はやくなってきて、ぼくが　頭でおさえようとしたときには

とっくに　うしろへころがっていっちゃった。　２点目だ、カエルの。



「こんどこそ、点を取るぞ！　えいっ！！」　ぼくは　力いっぱい　しっぽをふった。

きゅ〜んと　音をたてそうなくらい　すごいいきおいで　ころがっていった。

でも　カエルの手前で　スピードは　ガクッと　落ちたんだ。　どうしてだろう？



「きみって　まほうを使えるの？」　ぼくは　ふしぎになってきた。

「ぜ〜んぜん！　まほうが使えるなら、こんな　たいくつな冬を

さっさと春に　変えちまってるよ」　カエルは　石ころをつかまえたあとで　言った。



「２対０で　オレがリードしてるよ。　いくぞ！」　チョコン・・・そんなころがし方で

あのスピードになるなんて、やっぱり　信じられないよ。　今度は　さっきより

もっとはやく　頭をおろしてみた。　ぐうぜん、石ころを　おさえられた。



「やったぁ！　１点、ゲット！！　このちょうしで、ソレッ！」　ぼくの　せいいっぱいが

カエルには　つうじないなんて！　また、カエルは　軽がるとおさえた。

「３対１だね。　いく・・・」　カエルが　石ころにふれる前に　ころがり出した。



「な、なんだ！　きみが　なんにもしなくても　こんなスピードが出るの？！」

「バレちゃったか・・・ここは　坂道なんだ。　こっちが　坂の上！　はやくて

　 あたりまえだったわけさ」　カエルは　たからものをかかえて　帰ろうとしていた。



「待てぇ〜、だましたなぁ！」　ぼくは　カエルを追いかけて　坂を上っていった。

「また、遊んでくれよな！」　カエルは　そう言うと　あっという間に　出て行ってしまった。

「クッソォ〜〜。くやしいなぁ〜」　ぼくは　目の前にあった　かどばった石をころがした。



ごろんごろんと　ときどき　はねあがりながら、その石は　いきおいを増していく。

その先には　おかあさんが　なにも気づかずに眠っている・・・。

「た、たいへんだ！！　ぼく、たいへんなこと・・・」　大声で　さけんだ。

☆　　　　　☆　　　　　☆

どんどん　ころがっていくうちに　石だと思っていたものは　２つにわれ、

それから　もっとこまかく　バラバラになってしまった。　土のかたまりだったのだ。

おかあさんのところへ着くころには　ほとんど　砂つぶになった。



よかったぁ〜。　ぼくは　ホッと、胸をなでおろした。

ぼくの胸が　どこにあるんだかは　知らないけれど・・・。

でも　そんな気分は　ちょっとだけしか　続かなかった。



なぜって、おかあさんが　さっきの　ぼくの大声で　目をさましちゃった！

「まぁた、起きてチョロチョロしてんの！？　さっさと　寝なさい！」

「わかったよ。　寝るよ・・・でも　こんどは　おかあさんと　はなれて寝るからね」



おかあさんに　押さえ込まれて、こわい夢を見るのが　いやだった。

ちょっぴり淋しそうな顔のおかあさんは　あっちを向いて　寝てしまった。

ぼくは　ひとりで　まぁるくなって寝た。　すぐに　夢を見たようだった。



雲の上のような　フワフワしたところに　ぼくは　寝そべっていた。

気持ちいいなぁ〜。　ぼくは　寝たままで　からだを上下に揺すってみた。

ホヨン、ポヨン、ボヨ〜ン・・・だんだんと　高く　はね上がっていく。



空を飛んでるような気分だった。　ふと、下を見ると　あるはずの雲がない！

うわぁ〜〜、落ちるよぉ〜！　ぼくは　このときほど　つばさが欲しいと

　 思ったことはなかった。　ドサッ！と　落ちたところは　深い雪の上。



ちがうなぁ〜、正確に言うと　雪の中！　ズボッと　埋もれちゃったみたいだ。

「たすけてぇ〜〜！　冷たい！　寒い！　こごえちゃうよぉ〜〜！」

必死で　助けをもとめているところで、目がさめた。　なぜか　ぼくは　雪だらけだった。

☆　　　　　☆　　　　　☆

いつのまにか　外は　すごいふぶきで、穴の中まで　雪が吹き込んでいた。

　 おとうさんも　おかあさんも　目をさましていて、なにか　相談している。

　 「もうひとつ奥の部屋へ　移動するのね？」　おかあさんが　そんなことを言っていた。



雪をよけるために　ぼくたちは　もっと奥の穴に　引っ越すことになった。

　 もし、あのカエルが　また遊びに来たら、ぼくが　もう冬眠をやめちゃったと思うかしら？

　 そうだ！　なにか　目印をつけておこう！　あたりを　見わたした。



　 木の枝の　切れっぱしが見つかった。　口にくわえて　かべに矢印を書いた。

　 気がついてくれるといいな〜。　この前、石をころがす遊びで負けたときは

　 もう２度と会いたくないって　思ったりもしたのに・・・ぼくは今、カエルを待っている。



　 「ほら！　かぜ引いちゃうわよ。　行きましょう〜」　おかあさんが　ぼくに言った。

　 「うん、わかったよ」　切れっぱしをくわえたままで　モゴモゴと返事した。

　 そして、かべのところどころに　矢印を書きながら　おとうさんたちについて行った。



　 奥の部屋に　雪は吹き込んでこなかった。　今まで　寒かったせいか、

　 ここは とっても　あったかい感じがした。　しばらく　また、眠れそうな気がした。

　 もう、夢の中なんだろうか？　そこは　新しい緑が広がっている　草原だった・・・。

☆　　　　　☆　　　　　☆

ひなたのにおいがする草の中で、ぼくは　何かをじっと　待っていた。

　 カサッ！　ガサッ！　だんだん近づいてくる。　ぼくは　身をかがめて

　 息をひそめた。　来た！　今だ！！　パクッ！　ゴックン・・・。



　 ところが　ぼくのお腹の中のそれは、あばれまわった。

　 「こらぁ〜！　出せ！　食べるんじゃなぁ〜〜い」　あんまり　騒々しいので

　 思わず　口を開けてしまった。　ピョ〜ン！と　カエルが　飛び出してきた。



　 そこで　目が覚めた。　カエルが　ぼくの目の前で　青ざめた顔をしていた。

　 「どうしたの？」　ぼくが聞くと、　今度は　まっ赤な顔になって　カエルは言った。

　 「矢印をたどって　やってきたとたんに、ガブッ！だ・・・じょうだんじゃないぜ」



　 「夢じゃなかったのか。　ケガは　ない？」　ぼくは　カエルを　ペロッとなめた。

　　 びっくりしたカエルは　穴の天井にとどきそうなくらい　飛び上がった。

　 「ま、またぁ〜。　じょうだんは　よしてくれぇ〜！」　「アハハハッ！　ごめん」



ゲームで　負けたときは　とってもくやしかったけど、今　ぼくの前で　ふるえてる

カエルを見ていたら、かわいいなって　思えてきた。　友だちになれるかもしれない。

「よく、矢印の意味が　わかったね！　また、遊びにきてくれて　ありがとう」



「遊びに来たんだけど、こんなに　雪が積もってちゃぁ、遊べないねぇ」　カエルは

　 こまったような顔をして言った。　ぼくも　雪の中での遊びを思いつかなかった。

「穴の中の雪がとけたら、また　遊ぼう！　もうひと眠りするよ。　おやすみ〜」

☆　　　　　☆　　　　　☆

もう、夢をみるのも　飽きてきた・・・。　と、思いながら　また　夢の中。

ぼくは　お城のような大きなお家の庭にいた。　目の前は　とても美しい池。

チャポッ！　ぼくは　池の底へ　もぐっていった。　池の中にも　お城があった。



入り口から　入っていくと、かべに　矢印が書いてある。　そのとおりに進んでいくと

広い部屋の真ん中に　大きな穴が開いていた。　のぞきこむと　ガァ〜ッと音がして

水がふきだしてきた。　ぼくは　その水といっしょに　高く舞い上がった。



「キャッホ〜！」　そんな声を出しながら、目が覚めた。　もう　雪はとけたかな？

ぼくは　カエルと遊んだ穴へ　様子を見にいってみた。　雪は　なかった。

「ん？　あれは　なんだろう？」　ぼくが書いた矢印とはちがう、べつの矢印がある。



ぼくは　矢印をたどって　進んでいった。　ただ、出口につながっているだけみたい。

穴の外に　頭を出した、そのとき・・・ドサッ！　大きな雪のかたまりが　落ちてきた。

　 く、苦しいよぉ〜。　からだをひねっているうちにやっと抜け出せた。



「だ、だれだぁ〜〜！　こんな　いたずらをするのは！」　見上げると、カエルがいた。

「やったぁ〜！　かんたんに　ひっかかった！！」　と、大喜びしている。

また、やられた・・・。　くやしいなぁ〜。　今度こそ、カエルを食べちゃおうかな。

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

「やぁ！　ずっと　そこで　待ってたのかい？　かぜひくよ」　ぼくは　せいいっぱい

　　 やさしい声で言った。　カエルは　ぼくの目の前の　雪のかたまりの上に　ピョ〜ンと着地。

　 「どこか、ぐあいでも　悪いのか？」　と　聞いた。　怒らなかったから　ひょうし抜け？



　 「今の　雪こうげきのせいで、頭　打っちゃって・・・怒れなくなった」

　 ぼくは　カエルに　心配をさせてやろうと、思いつくまま　そう言った。

　 「もう、怒れないの？　やった！」　小声で　カエルがつぶやいたのを　ぼくは聞いた。



　 「頭を打ったときは　冷やさなくちゃ・・・」　カエルは　後ろ足で　雪をけ飛ばして

　 またまた、ぼくに　雪こうげきをしかけてきた。　だけど　ぼくは　落ち着いた調子で言ったんだ。

　 「あ〜、気持ちいい！　やっぱり　冷やすのは　効き目があるんだね。　ありがとう」



　 「あれ〜？　ほんとに　怒れなくなっちゃったのかな？」　カエルは　近づいてきた。

　 「もう１度、頭を打ったら　ショックで　治るかもしれないぞ。　やってみる？」

そこまで言うのか・・・、よし！　ほんとに　食っちゃうぞ！　あんな　カエル・・・。



「口の中からも　冷やしてみようかな。　雪玉つくってくれないか？」　ぼくはカエルに

たのんでみた。　カエルは　ぼくの口に入るくらいの雪玉をつくって　持って来てくれた。

「ほら！　どうぞ・・・」　「ありがとう。　パクッ！」　「あうあう、　オレまで・・・」



そうなんだ、ぼくは　もう　がまんできなくて、雪玉といっしょに　カエルも食っちゃった。

ぼくに　いたずらばかりするからさ。　しかたないんだ。　ぼくらは　カエルが　大好物だし、

冬眠しそびれちゃって　お腹ペコペコだし・・・。　しかたないんだ、しかたない・・・。

☆　　　　　☆　　　　　☆

「あいたたた・・・」　ぼくは　丸まりながら、痛いのをこらえていたが

とうとう　雪玉を吐き出した。　カエルが　こうげきしたのではない。

冷たい雪が　虫歯にしみて、とっても痛かったのだ。　カエルは　どうしたろう？



雪玉と　いっしょに　出てきたけれど、ぜんぜん　動かなかった。　死んじゃった？

あわてたぼくは　そっと　口にくわえて、穴の中に入って行った。

　 少しでも　あたためてあげよう。　奥だ、奥のほうが　あったかい。　がんばれ！



もう、食べたいなんて　ちっとも　思わない。　元気になってほしいと 本気で思う。

ぼくは　穴の奥に　カエルを運びながら、自分のやってしまったことを　反省した。

もし、カエルが　ゆるしてくれたら、今度こそ　ほんとうの友だちになろう！



穴の奥は　あたたかかった。　カエルは　もぞもぞと　動きだした。

　 よかったなぁ〜。　ぼくは　安心した。　そしたら　涙が出そうになったけど、

カエルには見られたくないので　グッとこらえて　話しかけてみた。



「だいじょうぶ？」　その声を聞いて、カエルは　ぼんやり　目を開けた。

「きみの口の中で　冬眠していたのに・・・。　ふぁ〜〜ぁ、よく眠った！」

「と、冬眠中？？　どうして　ぼくの口の中で　眠れるのさ！！」　ぼくは　あきれて聞いた。



「どうして？って　安心してるからだろ？！　ぜったいに　食べられないって」

カエルの返事に　ドキッとした。　ぼくは　あのときの　自分のきもちが　はずかしかった。

虫歯が痛まなかったら　ぼくは・・・ぼくは・・・だいじな友だちを　食っちゃうとこだった。



　　　　 カエルと　ぼくは　ほんとうの友だちになれたのだろうか？

ぼくの口の中で　少しの間、冬眠したカエルと　春になったら　また、遊ぶ約束をした。

「こんどは　外で、思いっきり　遊ぼうね！」　「うん！　じゃぁ、またね」

☆　　　　　☆　　　　　☆

穴の入り口から　吹き込んでくる風が　あたたかくなってきた。

どうやら　春になったみたいだ。　おいしそうな　あまい香りもしてきた。

おとうさんと　おかあさんも　起きてきて、外へようすを見に行った。



「さぁ、長かった冬眠も　おわりだ。　おとなしく　がんばったな！」

おとうさんは　ぼくを　ほめてくれた。　ぼくが　冬眠中にしでかしたことを

何にも知らずに　ぐっすり眠っていたから・・・。　おかあさんは　笑っていた。



カエルは　どうしたんだろう？　春になっても　すがたを見せない。

　 まだ、眠っているのかな？　冬のあいだ　遊びすぎたもんなぁ。

何日　待っても、カエルは　来なかった。　ぼくは　穴の入り口で　ぼーっとしている。



こうして　ぼくの　ながぁ〜い冬眠は　おわった。　ぽかぽかの　日ざしにつつまれて、

いろんなことを　思い出していた。　何をしているときが　いちばん楽しい？って聞かれたら

「冬眠ちゅうです！」　ぼくは　きっと、そう答えるだろう。

（おしまい）