●月○日　　（気分はジングルベル）　　日刊童話　第１号

『１２月物語（下）』

オレは　サンタさんの家の　ゴミ箱。

１２月になると　家中、こどもたちからの手紙でいっぱい。

オレも　手紙に埋もれてしまって　なかなか役目をはたせないんだ。

「ほぉ〜、この子は　お友だちに友情を届けてほしいらしいわい」

「ふむふむ、これは　おかあさんからの手紙じゃな。ツリーを　おのぞみかな」

サンタさんは　手紙を１通、１通、すみから　すみまで読んでいくから、

たいへんな時間がかかるんだよな〜。でも　それが仕事だし、

とっても　楽しみなんだって、いつか　オレに話してくれたっけ。

そばでは　サンタさんのおよめさんが　読み終わった手紙を

国別に分ける仕事をしているよ、鼻歌なんかを　歌いながら・・・。

「フン、フフ、フフ〜ン♪　あら、これは　どこの国かしら？」

「どれどれ・・・あっ、あ・・・これは　いいんじゃ」

サンタさんは　あわてて、ポケットに　その手紙をおしこんだんだ。

「そうなの？」　およめさんは　ちょっと首をかしげてから、また　仕事にもどった。

みんなは　サンタさんの住んでるところを知らないのに　プレゼントが届くだろ？

　 心の中で　願っていることが、手紙に変身して　サンタさんに　送られるのさ。

きっと、オレの手紙も　この　どうしようもないほど　たくさんの手紙の山の

どこかに　あるはずだよ。　え？　何を　お願いしたかって？　言えないよ。

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

「そろそろ　夕食にしましょうか？」　およめさんが声をかけると、今まで

　 夢中で　手紙を読んでいたサンタさんも　ふ〜っと　ため息をついて、伸びをした。

　 「あったかいシチューを　召し上がって！」　湯気が立ちのぼったスープ皿を

　 目の前にすると、サンタさんは　にっこりほほえんで　言いました。

　 「ほぉ〜、これは　からだが　あたたまりそうじゃ。どれどれ！」

　 サンタさんの家の居間は　手紙だらけなので、だんろに火を入れることができないんだ。

　 火の粉が飛んで、みんなの　お願いごとが　燃えてしまっては　たいへんだからね。

　 だからオレは、サンタさんに　使い捨てカイロを　プレゼントしたいって毎年　思うよ。

　 「おまえが行ってみたい国は　どこなんじゃ？」　シチューをペロリと食べ終わって

　 サンタさんは　およめさんにきいてみた。およめさんは　パンをちぎって

　 口に入れたばかりだったので、しばらくは　返事ができなかったみたいだけど

　 サンタさんの目を　じっと見つめていた。急にどうしたのかしら？って　そんな表情で。

「わたしが行ってみたいのは　日本かしらね〜。やさしいお手紙が多いから・・・」

　 「なるほど！　おまえも　手紙を読んでおるのじゃな。日本人も　あたたかいのぉ〜」

　 サンタさんは　何かをたくらんでいる！　みんなは　そう　思わないか？

　 目を細めて　およめさんを見ていたサンタさんは　ふたたび、手紙を読みはじめた。

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

あしたは　クリスマス・イブ。みんなのうちでは　すてきな料理と　おいしいケーキが

　 テーブルいっぱいに　ならんで、楽しいパーティーが　開かれるんだろうか？

　 サンタさんの家では　やっと　だんろに火を入れられるようになる。でも　それだけ！

　 テーブルには　およめさん１人分の　ささやかな夕食が一皿　置かれるんだろうな。

　 な〜んてことを　想像していたら、あしたの準備が　はじまったみたいだ。

　 「わすれもの、しないでくださいよ」　およめさんが　心配そうに　プレゼントを

　 チェックしている。サンタさんは　自分の記憶のままに　ポイポイッと

　　 白い大きな袋に　詰め込んでいく。あれだけの手紙の内容を　全部、おぼえてるのかな？

　 「動物園のトナカイにプレゼントするベルは・・・っと、４個だったな！　ホイ！」

　 「あなた、それ、たしかなの？」　「そうじゃよ、４個〜たぶんな！」

　 ★　　　　　★　　　　　★

いよいよ　きょうは　クリスマス・イブ。そして　ゆきちゃんの　おたんじょう日。

そこで　ここからは　ゆきちゃんの家の居間に置いてあるゴミ箱が　お話するね。

ゆきちゃんの　おたんじょう日パーティーが　はじまってるの！

お客様は　おじいちゃんと　おばあちゃん。テーブルには　ごちそうがいっぱい。

ゆきちゃんは　オシャレをした木が　いつ、お祝いに来てくれるのか

　 ワクワクしてるみたいなの。ほんとに　やってくるのかしら？

　 ハッピバースデーのうたを歌って、ケーキのロウソクを吹き消したら・・・

さぁ、みんなから　ゆきちゃんへのプレゼント！　おじいちゃんから　お絵かきセット。

おばあちゃんからは　かわいいワンピース。そして　おかあさんは　手作りの

『おとうさんは　お星さま』　っていうえほん。ゆきちゃんは　ピョンピョンはねながら

みんなに　お礼を言ってたよ。　と、そのとき・・・コンコン！　ドアをノックする音。

「はぁ〜い。　だれかしらね」　おかあさんは　玄関に走って行ったの。

「ゆきちゃん！　ドアの外に・・・」　おかあさんは　身長の半分くらいの

小さな鉢植えのクリスマス・ツリーをかかえて、居間にはいってきた。

「うわぁ〜〜ぃ！　オシャレな木さん、来てくれたの？　やったぁ！！」

ゆきちゃんは　それはもう　おおよろこびで、おじいちゃんの首に　しがみついたり、

おばあちゃんと手をつないで　グルグルまわったりしてたわ。

見ているアタシまで　楽しくなってきて、ゆきちゃんに　けとばされたのも

気がつかなかったくらいよ。でも　だれか　起こしてくれる？

タンスの上に　オシャレな木をかざってから、おかあさんが　アタシを

もとどおりに　置いてくれた。　そして　ゆきちゃんに言った。

「ゴミ箱さんが　痛いって言ってるよ。　さ！　ごはんにしましょ！」

「はぁ〜い！　ゴミ箱さん、ごめんね」　ゆきちゃんは　すなおな　いい子ね〜。

☆　　　　　☆　　　　　☆

パーティーがおわって、おじいちゃんと　おばあちゃんは　帰って行った。

「ゆきちゃん、寝る時間よ。　お布団の中で　えほんを読んであげるから・・・」

まだ、ねむたくない！　って　がんばってた　ゆきちゃんも　えほんと聞いて

あわてて　布団の中に　もぐりこんだの。　おかあさんも　そばに寝転んで

「『おとうさんは　お星さま』　の　はじまり〜♪」　と　話はじめた。

「ゆきちゃんのおたんじょう日は、イエス＝キリストという心の透きとおった人が

　 生まれたクリスマスの　まえの日・・・クリスマス・イブなのです」

　 えほんには　キリストが生まれたときの絵と　ゆきちゃんの生まれたときの絵が

　 ならべて描いてあった。だけど・・・あらあら、つかれちゃったのかしら、

　 もう　ゆきちゃんは　夢の中みたいよ。かわいい寝息が　聞こえてきた。

　　 おかあさんは　えほんを閉じて　クリスマス・ツリーのそばに置いた。

　 そろそろ　日付が変わるわ。どこの　ゴミ箱さんに　バトンタッチすればいい？

　 ★　　　　　★　　　　　★

ボクが　話したい！　動物園は　たいへんなことになってるんだよ。

　 トナカイの柵の中に　４個のベルが　空から　降ってきたんだ。

　 「やったぁ〜！　サンタさんからの　ベルが届いたんだ」

　　 見つけたトナカイたちは　さきを争って　首にかけていった。

「ないよ！　ひとつ　たりない・・・」　さいごのトナカイは　さみしそう。

　 でも　４頭は　そんなこと　おかまいなしで、星のかがやく空を　飛びまわっている。

　　 ベルの音が　動物園にひびき、キリンも　シマウマも　空を　見上げた。

　 「ひとつたりないのか・・・」　トナカイたちは　やっと　気がついたようだ。

　 「どうする？　５個　そろっていたら、すぐにでも　サンタさんのおてつだいに

　 飛んでいけるのになぁ〜。しかたないから　かわりばんこに　空のさんぽをしよう！」

　 １頭が　ベルをはずした。さいごのトナカイが　うれしそうに　首からかけて

　 「ありがとう！　ちょっとだけ　さんぽ、してくるね」　と　ほかのみんなと飛び上がった。

　 「うわぁ〜、きもちいい〜」　「たいくつな夜に　楽しみができたな」

　 「よし、下のトナカイと　かわってくる」　「うん、そのつぎは　おれ！」

　 トナカイたちは　４個のベルで　じょうずに　楽しんでいるみたい。

　 ベルが５個あったら　とっくの昔に　みんな　いなくなっちゃったかも。

　　 よかった、よかった！　ケンカにもならず・・・ホッとしたよ。

　 つぎのお話は　どこのゴミ箱さんなんだろう？　よろしくね！

　 ★　　　　　★　　　　　★

きょうは　クリスマス。　空も明るくなってきた。

　　 わたしは　コンビニ前のゴミ箱。みんなは　リョウと　アッコのこと

　 忘れてないでしょうねぇ。わたしは　あれから　ずぅ〜っと　気になってる。

　 今ごろ　アッコは　リョウからの手紙を　読んでいるのかなぁ？

　 それにしても　きょうは　冷え込んでる。コンビニに入っていく

　　 お客さんたちの息が白い。みんな　背中をまるめて　小走りでドアへ急ぐ。

　 リョウも　そろそろ　やってくるかな？　わたしまで　ドキドキしてきた。

　 早起きしすぎて　眠くなってきちゃった・・・。でも　リョウが来るから・・・。

　 コツン！

「イテェ〜〜！　また　空き缶か？！　空き缶は　となりのゴミ箱へ！！」

って、わたし　眠ってたんだ！　それにしても、缶を捨てちゃ　ダメじゃない。

　 見上げると　またまた　リョウだった。そして　となりへ入れなおしてた。

　 小さくジャンプしながら、うで時計で　時間をたしかめている。

　 「ダメかな・・・？」　ボソッと　そう言った。　つめたいっ！　ん？　

　 リョウの涙かと思ったら　雪が　わたしの顔に　降ってきたのかぁ。

　　 ホワイト・クリスマスだというのに　リョウの友情は　届かなかった・・・。

　 リョウが　帰ろうとした　そのとき、道路のむこうがわから　声が聞こえた。

　 「リョウちゃ〜ん！」　両手をふりながら　アッコが　はねてる。

　 「アッコ！！」　リョウの目が　かがやいた。

　 アッコは　左手を　こしに当てて、右手で　Ｖサインをした。

　 はずかしくないのかなぁ〜？　通りすぎていく人たちが　ふしぎそうに　見ている。

　 雪が　ふたりの間で　うれしそうに　おどっていた。

　 ★　　　　　★　　　　　★

クリスマスの朝、ゆきちゃんは　だいじなわすれものをしたみたいに

おおあわてで　起きてきた。台所で　朝ごはんを作っている　おかあさんに

「たいへん！　ねむっちゃったの！！　えほん、読んで！！！」　と　さけんだ。

その声で　アタシも　バッチリ、目がさめたんだけどね。

「朝ごはんのあとにしましょ、えほんは・・・」　「はぁ〜い！」

ほんとに　すなおな　いい子だね〜、ゆきちゃんは。

ごはんのあとかたづけも終わって、やっと　えほんの時間がきた。

「さいしょから　読むの？」　「うん！　おぼえてないの」

「ゆきちゃんのおたんじょう日は・・・」　おかあさんのお話が　はじまった。

ゆきちゃんは　にこっと笑っている赤ちゃんの絵を指さして

　 「これ、わたし？　かわいいね〜。おかあさんに　だっこされてる！」

　 って　よろこんでいる。と思ったら　急に　えほんを　のぞきこんで

　 「おとうさんは？　おとうさん！」　って言いながら　えほんのページをめくった。

　 「いない・・・、おとうさんは？」　また　つぎのページ、そのつぎのページ・・・。

　 「ゆきちゃん！　ほら、お話は　つづくのよ。パラパラめくってちゃ　読めないわ」

　 おかあさんは　しずかに言った。ゆきちゃんを　ひざに座らせて

　 「ゆきちゃんの　おとうさんは　お星さまになったのよ・・・」　夜空で　光ってる星の絵を

そっと　なでながら　おかあさんは　声を　つまらせた。

「お星さまに？」　ゆきちゃんも　その絵を　なでてみた。

タンスの上のクリスマス・ツリーを　ゆきちゃんの前に置いて、

「このお星さま、開けてみてごらん」　と　おかあさんが　てっぺんの星をゆびさして言った。

お星さまを開くと　そこには　おとうさんの写真が笑っていた。

「おとうさんは　お星さま・・・」　ゆきちゃんの言葉で　アタシったら　泣いちゃった。

★　　　　　★　　　　　★

サンタさんは　クリスマスの朝、とっても疲れた顔をして　帰ってきた。

　 「やれやれ、今年の仕事も　終わったわい」　そう言って、だんろの前のいすに

　 どっかりと　腰をおろした。およめさんは　あったかいミルクティーを渡しながら

　 「ご苦労様。今年は　失敗しなかった？」　と、笑った。

　 「何を言っとる！　わしゃ、失敗などしたことは　一度も　ありゃぁせん」

　 「あらまぁ、そうでしたっけ？」　口ゲンカになりそうだったので

　 およめさんは　台所へにげることにした。すると　サンタさんが　追いかけてきて、

　 「食事のしたくは　いらんよ。今から　でかけるんじゃ」　ちょっと　お腹を

　 突き出して、自慢げに言った。およめさんは　びっくりしている。

　 「あなたが　配達のあと、でかけるなんてこと　今まで一度も　なかったわ！」

　 サンタさんのおでこに　手を当てて、自分のおでこの熱さと比べている。

　 「あらまぁ、そうでしたっけ？」　サンタさんが　およめさんの口マネをした。

　 「どこへ　おでかけになるの？」　「おまえの　行ってみたいところじゃ」

　 「へぇ〜・・・えっ！？　私もいっしょに？！」　「そうじゃよ、したくしなさい」

　 「まぁ、うれしい！　あっ！　そうそう、あなたにも　プレゼントが

　 届いてたわよ、テーブルの上を　ごらんになってみて！」

　 「これじゃな、どれどれ・・・」　サンタさんが　包みを開けると

　　 中から　使い捨てカイロが　出てきた。

　 「ほほう〜、これは　ありがたい！　だれからのプレゼントかな？」

　 オレオレ！　オレからだよ！！　ゴトゴト動いて知らせようとしたけど

　 サンタさんには　わからなかったみたいだ。まっいっか！

☆　　　　　☆　　　　　☆

サンタさんと　およめさんは、日本で　冬休みを過ごすことになった。

　 急なことだったので　どこのゴミ箱さんに　バトンタッチしたらいいか　わからないんだ。

　 サンタさんが　オレをいっしょに連れてってくれれば　話はつづけられるのに・・・。

　 だけど　夫婦　水入らずの冬休み、きっと　日本の温泉に入って　のんびりするんだ！

　 また、来年のクリスマスの活躍を　ゴミ箱一同、期待してるよ。



　　 いつか　みんなのまわりのゴミ箱も　お話をしてくれるかもしれない。

　 だから　あんまり　困らせたり　け飛ばしたりしないほうがいいよ。

（おしまい）