『１２月物語（上）』
★月☆日 （気分は粉雪） 日刊童話 第１号
『１２月物語（上）』
「１２月だというのに きょうは 暖かい。
こんな日は おでんを買っていく人も 少ないだろうな。」
コツン！
「イテェ〜〜！ いきなり 空き缶か？！
空き缶は となりのゴミ箱へ！！」
☆ ☆ ☆
そう！ もう お気づきですか？ わたしは コンビニの前のゴミ箱です。
この １２月物語では いろんな場所のゴミ箱なかまが
すてきなお話を聞かせてくれることでしょう。
☆ ☆ ☆
空き缶を捨てた少年は 間違いに気づいたらしく、
となりの ビン・カン専用のゴミ箱へ 入れなおした。
大きく伸びをして、それから うで時計をチラッと見た。
だれかと 待ち合わせしているようだ。
上着の右ポケットから 白い封筒をとりだして、
おでこにあてて、祈るようなそぶりをしたかと思うと、
あわてて それを しまいこんだ。
「ごめんね！ 待たせちゃって・・・」
「ぼくも 今、来たところさ！」 少年は ニコニコしながら言った。
「走ってきたら お腹すいちゃった。入っていい？」 コンビニを指差して 女の子は笑った。
お店の中に入って行ったふたりを ほほえましいなと思いながら、わたしは見ていた。
まさか、少年は また 缶コーヒーを 買ってしまうのだろうか？
ポカポカの日差しをあびて、ちょっと うとうとしかけたころ、
少年たちが お店から、出てきた。ふたりとも 肉まんと お茶を手にして・・・。
「ハフハフ・・・おいしい〜！ で、リョウちゃん、話って？」
「ホフホフ・・・うん・・・アッコ、女子校に進学しちゃうだろ？」
「そのつもりよ。でも、合格すれば・・・の は・な・し！」
少年は ちょっとのあいだ、だまってしまった。あの封筒を渡すのかな？
「アッコなら だいじょうぶさ！ がんばれよな！！」
「ありがと〜。きょうは はげましてくれたのね。じゃ！勉強あるから・・・」
「あっ！ うん・・・またな！」 少年は お茶を 飲み込んで、あわてて手をふった。
もうすぐ 別々の中学校に行くことになるんだな・・・、おいおい 封筒は？
と思ったら、ポケットから取り出した封筒と 空き缶を ゴミ箱に捨てて
少年は 走って行ってしまった。空き缶は となり・・・なんだけど。
☆ ☆ ☆
封筒のなかの手紙には、ほとんど ひらがなで こんな文章が 書いてあった。
『 サンタさんに ほしいもの ひとつって 聞かれたら、
ぼくは アッコとの かわらない友情がほしいっていうよ。
べつべつの学校になっても これまでとおんなじくらい
アッコのことを かんがえていたいから。
サンタさんは ぼくの友情を アッコにとどけてくれるかな？
もし、とどいたら・・・そのときは
Ｖサインして わらってほしい。 リョウ 』
どうして ゴミ箱のわたしが、手紙を読めるのかって？
ほんとに その人のことを心配しているとき、
心の目で見えるように 特別な能力が 与えられているんだ。
ひょっとしたら 君たちにも 与えられてるかもしれないよ！
☆ ☆ ☆
もうすぐ ゴミをかたづけに お店の人が やってくる。
この手紙を 捨てさせるわけにはいかないなぁ〜。
わたしは 必死で 封筒だけを 引き寄せた。こんな力で 守りきれるかな？
でも できるかぎりのことは やってみよう！
お店の人が 大きなゴミ袋を手に やって来た。
わたしを 逆さにして、ゴミを袋にうつして行ったけど、
どうにか 封筒は 捨てられずに、わたしの一番底に はりついていた。
☆ ☆ ☆
次の日、元気のないリョウが わたしのそばに立っていた。
待ち合わせではないらしい。昨日のゴミが かたづけられているのを見て、
また、ひどく 落ち込んでいるように思えた。捜してごらん、リョウ！
わたしにも聞こえるほどの 大きなため息のあと、
ゴミ箱をのぞいたリョウの 目がかがやいた。
「あ、あった！ ぼくの封筒・・・」 信じられないっていう顔をしていた。
それから ゴミ箱の底に 残っていた白い封筒を手にとって、チュッ！てした。
おい！ それは いくらなんでも 汚いよ！！
でも そんなに喜んでくれて わたしは うれしかった。
「まだ、捨てられてなかったら・・・そしたら・・・もう少し・・・」
リョウは 空を見た、こぼれ落ちそうな涙を くい止めるために。
「勇気を出してみようと そう思って、ここに来たんだ」
だれに向かって 話しているのかは わからない。ひとりごとなのだろう。
わたしは 声にはならない言葉をかけた。
「がんばれ！ クリスマスには Ｖサインのアッコちゃんと
ここに遊びに来るんだよ」 リョウの背中は きのうより大きかった。
★ ★ ★
オイラ、小児科の病院の 待合室に置いてあるゴミ箱。
いつも 暖かくて、居眠りばっかりしてるけど、
キャ〜〜って泣き叫ぶ声で 目がさめたり、
ゴットン、ゴットンって 揺すられて 起こされたり・・・。
っと まぁ、ラクあれば 苦あり！って 感じかな。
自己紹介は これくらいにして、そろそろ お話に入ろう。
☆ ☆ ☆
１２月になると 風邪ひきさんで、待合室はいっぱいになる。
だけど、しずかなもんだよ。元気の出ない子供たちは
みんな おかあさんのひざの上で 絵本を読んでもらってるんだ。
「おかあさん、これ なあに？ キラキラしてるよ！」
「これはね・・・木！」 おかあさんは そっけなく答えてたなぁ。
「いつも おそとで見てる木と ちがうねぇ」
こどもは おかあさんの顔を のぞき込むように見て、言ってたよ。
「ちょっとだけ、よそいきのオシャレをしてるわね」 なんという説明なんだ！
「木が オシャレして、どこへ行くの？」 「え〜っとねぇ・・・」
３才くらいのこどもだが、クリスマス・ツリーを しらないらしい。
母親も 教えたくない様子だ。オイラは この親子のことが ちょっぴり気になった。
「わたなべさ〜ん！ わたなべ ゆきちゃん！」 看護婦さんに呼ばれて
その親子は 診察室へ 入って行った。
☆ ☆ ☆
「ゆきちゃん、おだいじにね。おとなしくしてたら、すぐになおるからね」
看護婦さんは やさしく頭をなでながら、ゆきちゃん親子を見送った。
おっと！ すぐに 薬局へ行っちゃうんだったな・・・。
ゆきちゃんちのゴミ箱に つづきは聞いてよ！
☆ ☆ ☆
アタシ、ゆきちゃんの家の居間に置いてあるゴミ箱よ。
病院から帰ってきた２人は コタツにはいって みかんを食べてる。
つづきをお話したいんだけど、ゆきちゃんは どうやら忘れてしまったみたいね、
キラキラの よそいきのオシャレをした大きな木のことを・・・。
おかあさんは みかんの皮をむきながら、いろんなくだもののことを
ゆきちゃんと話してる。クリスマス・ツリーを、思い出させないためかしら？
「ゆきちゃん、みかんよりもちっちゃいくだもの しってる？」
「えっと、えっとねぇ・・・いちご！」 ゆきちゃんは みかんを一粒つまんで
元気に 答えた。おかあさんは その一粒を パクッて 食べてから、
「よくできましたぁ。じゃぁね、みかんより 大きいくだもの しってる？」
と、また 聞いたの。ゆきちゃんは おかあさんの口を見つめたままで言った。
「あーぁ、おかあさんに食べられちゃった！ ん〜とね、バナナ！」
「ゆきちゃんは よくしってるねぇ」 「おかあさん・・・」
「なぁに？」 「バナナって みかんの木みたいなのに できるの？」
ゆきちゃんは おばあちゃんの家にあるみかんの木のことを 思い出した。
「ちょっと ちがうなぁ〜」 おかあさんは らくがき帳をとりだして
クレヨンで 絵をかいてあげてたの。 それを見ていた ゆきちゃんが、突然・・・
「木は オシャレして どこへ行ったの？」 だって！
おかあさんは みかんを飲みこんでしまって、せきこんだ。
「ゴホッ！ ゴホ・・・ン、フゥ〜。ど、どこへ 行ったんだろうね？
ゆきちゃんは どう思う？」 答えに困ると おとなは よく、こう言うんだよね。
「わたしのおたんじょう日パーティー！」 ゆきちゃんは すぐに返事してた。
「そ、そうかもしれないわね！ そうだといいね〜」 おかあさんは やっと
それだけ言って、ゆきちゃんの頭をなでてた。ゆきちゃんは、らくがき帳に
オシャレな木を 思い出しながら描いてるよ。よっぽど 気に入ったんだな。
「おかあさん！ わたしのおたんじょう日って、あと いくつ寝たら来る？」
「え〜っと・・・あと １５回ね・・・」 かべのカレンダーを見ながら、
おかあさんが 言ったの！ それって クリスマス・イブじゃない！！
☆ ☆ ☆
ゆきちゃんは いつのまにか おかあさんのひざの上で 眠っちゃった。
そっと、お布団に寝かせ ふと タンスの上の写真に目をやった おかあさんは
「わたしも そろそろ、しっかりしなくちゃね」 と その写真に 話しかけてた。
おかあさんのほほを 涙が伝って落ちて、コタツ布団にしみこんだ。
アタシに 何が できるって言うのよ。おかあさんの考えてること、
わかんないんだもの・・・手助けだって できっこないわ！
と、そのとき アタシの心に おかあさんの心の声が聞こえてきた。
『 あなた・・・なぜ死んじゃったの？ ゆき、まだ ちっちゃいのに。
これから いろんなこと、覚えていくのよね。
クリスマスだって、サンタさんだって・・・そして・・・ツリーだって。
教えてやらなくちゃね、やっぱり。 だけど わたしにはできそうもない。
あの日、あなたは イベントで使うクリスマス・ツリー用の
もみの木を切り出しに行って、搬送中に・・・交通事故で・・・。
生死をさまよったあげく ゆきの１才のたんじょう日に・・・。
わたしは クリスマスも クリスマス・ツリーも きらいだわ。
つらい・・・つらいけど・・・しっかりしなくちゃね。』
どうして ゴミ箱のアタシが、心の声を聞けるのかって？
ほんとに その人のことを心配しているとき、
心の耳で聞こえるように 特別な能力が 与えられているんだ。
ひょっとしたら 君たちにも 与えられてるかもしれないよ！
☆ ☆ ☆
次の日から おかあさんは ゆきちゃんが寝ている間に
『おとうさんは、お星さま』 っていう えほんを描きはじめたの。
新しいらくがき帳に すてきなクレヨン画が いっぱい！
あらっ？ ビリビリッ！？ クシャクシャッ！！ ポイッ！
アタシ、もう おなかいっぱいよ！
おかあさん、そろそろ捨てて来てくれないかしら。
まっいっか！ 少し 元気が出てきた おかあさんを 応援しよう！
アタシは 声にはならない言葉をかけた。
「がんばれ！ ゆきちゃんの おたんじょう日には ふたりで
なかよく おとうさんのお話するんだよ。」 ゆきちゃんの寝顔がほほえんだ。
★ ★ ★
ボクは 動物園の ゴミ箱だよ。どんな動物が ここから 見えると思う？
シマウマや、カンガルー・・・キリンは ゆ〜ったりと 動いてるなぁ。
そして、ボクの 目の前には トナカイが５頭いるんだ。
寒くなって トナカイたちは 元気になってきたような気がするよ。
冬の動物園は さみしいけれど・・・きょうは日曜日！
親子連れや 若者たちで、お昼ころには にぎやかになってきた。
やっぱり、キリンは人気者だなぁ〜。子供たちが柵につかまって 大喜びで見てるよ。
おとうさんに かたぐるましてもらってる子も キリンの大きさに おどろいてた。
言い忘れたけど、ボクは キリンのかたちの ゴミ箱なんだ。
子供たちと おんなじくらいの 背の高さだから、
背伸びして、頭を ポンポンッて たたいてく子もいるし、
ゴミを わざわざ探してまでも ボクの口に 捨てて行く子もいるよ。
トナカイも この季節は みんなが 足をとめて見ていくんだ。
「サンタさんの おてつだいをしてる、トナカイさんよ」 とか、
「サンタさんのソリを引っ張ってる、トナカイだよ、ホラホラ！」 などと
おとうさん、おかあさんは 子供たちに おしえている。
この言葉が、あとで とんでもない騒動になるなんて、考えてもみなかった。
☆ ☆ ☆
木枯らしが 気持ちよくて うとうとしていたら、ボクの口に
新聞紙を 押し込んでいく人がいて、目がさめちゃったよ。
ペッペッ！ ふいをつかれたので、思わず 吐き出してしまった。
風に飛ばされて、新聞紙は トナカイの柵の中へ・・・。
トナカイたちは ゆっくりと 新聞のまわりに 集まってきた。
読んでるのか、どうかはわからない。デパートの新聞広告のようだったけど。
『サンタクロースが プレゼントを運びます。あなたの愛も いっしょに・・・』
と 書いてあって、ソリをひっぱってるトナカイが 描かれていた。
１頭のトナカイが 小さくジャンプしているようだ。何をやってるんだろう？
何を話し合ってるんだろう？ 聞き取れないなぁ。ちょうど 動物園の 閉まる時間で
あたりは ザワザワしていた。お客さまが 楽しそうに話しながら帰っていく。
☆ ☆ ☆
お客さまがいなくなって、しずかになった動物園で、
ボクは トナカイたちの話を聞こうと いっしょうけんめいになっていた。
「わたしたちの仲間が サンタさんの おてつだいをしてるらしいわ」
「オレたちにも できるかな〜？ ソリを引っ張るくらいなら できそうだけど」
「この紙には 空を飛んでる絵が 描いてあるわねぇ」
正確には 聞き取れないけど そんなことを 語り合ってるようだった。
誰だって、せまい囲いの中で くらしたいとは 思わないよなぁ〜。
あの トナカイたちも サンタさんのおてつだいに行きたいんだろうか？
ま、まさか・・・空を飛べる！なんて かん違いはしてないだろうなぁ〜。
っと トナカイたちのほうを見ると・・・奥の岩をのぼって、
飼育小屋の屋根に 飛び移っていた！！ な、なんてことをしてるんだ！
「ここから サンタさんのところへ 飛んで行こう」
「あの絵のように 夜空たかく・・・」 トナカイたちは 恐れることなく、
今にも 飛び立ちそうだ。 どうしよう・・・やめさせなくちゃ！
☆ ☆ ☆
「きみたちの首に サンタさんからもらったベルは ついているかい！？」
ボクは 声にならない言葉で 必死に話し掛けた。
「サンタさんからもらったベルがないと 空を飛べないんだ！」
届け！ ボクの言葉！！ そう思いながら、くり返し、さけんだ。
「きみたちの首に サンタさんからもらったベルは ついているかい！？」
トナカイたちは きょろきょろと あたりを見渡している。
「だれかが 話し掛けてないかい？」 １頭のトナカイが そう言うと、他のみんなも
「たしかに聞こえた！ ベルがないと 飛べないって！！」
「サンタさんから ベルをもらわなくちゃ、飛べないのか・・・」
トナカイたちは 屋根から 岩へ飛び移り タカッ、トコッ！と 降りてきた。
よかった・・・１頭もケガせずにすんだ。ボクは 肩の力が 抜けていくようだった。
どうして ゴミ箱のボクが、トナカイに気持ちを伝えられたのかって？
それはね！ ほんとに その人のことを心配しているとき、
心の言葉で伝えられるように 特別な能力が 与えられているんだ。
ひょっとしたら 君たちにも 与えられてるかもしれないよ！
こうして この騒動は 終わったんだけどね、じつは ひそかに
トナカイたちは 待っているらしいんだよ、クリスマスに サンタさんが、
空を飛べるベルを プレゼントしてくれるのを・・・。
（下につづく）
