☆月★日　　（気分は平和解決）　　週刊童話　第２号

『カラスのカラさわぎ（下）』

次の日も　その次の朝も、山鳩のヤツ　すがたを見せなかったんだ。

じまんする相手がいないと、さみしいもんだなぁ〜。

こうして　油断させておいて、忘れたころに　ふっと　やってくるのかもしれない。

これからも　早起きをつづけなくっちゃ！　そんなことを　考えているとき

仲間のカラスたちが　ボクの目の前を　通り過ぎて行ったんだ。

「アイツも　ひどいめに合ったもんだなぁ〜」

「そうだよ。悪いことなんて　な〜んにも　しちゃぁいないのにさ！」

「オレたちも　気をつけようぜ」　「そうだな・・・」

なんの話だろう？　ボクは　気になったので、呼び止めた。

「ねぇねぇ！　だれが、ひどいめに合ったの？」

「やぁ、クロ！　よく、そこに　止まっていた山鳩のグレイさ」

「ケガしちゃったの？　だいじょうぶなの？　今、どこにいるの？」

　 ボクは　思い浮かぶままに　質問した。友達も　知ってることは　全部答えてくれた。

団地の裏の　林の中に、山鳩のグレイは　住んでるらしい。ボクは　飛びたった。

ゴミ出しの日に　食べ物を探してる団地を通り過ぎると、

雑木林の中に　ボクの巣よりも地味な　グレイの巣があった。

「大丈夫かぁ？」　いつもより　静かに　話しかけてみた。

顔を　こちらに向けたグレイの左目は　開いていない。血が固まっている。

「大丈夫じゃない・・・」　いつもより　もっと　ぶっきらぼうな答えがかえってきた。

　 「だれに　やられた？」　ライバルを　見つめることができずに

振り向いて　団地のほうを見ながら聞いた。人間の子供たちが　ドングリを拾っていた。

「あいつらだ・・・ドングリをたまにして　パチンコ遊びをしてやがる」　声が震えている。

「マトなら　生き物でなくても　いいはずなのに・・・」

　 グレイのくやしさを　ボクは・・・ボクの心は　しっかりと受け止めた。

「考えがある！」　それだけ言って、ボクは　自分の巣にもどった。

「デデーポポー、デデーポ・・・」　力なく、グレイは　見送ってくれたようだ。

☆　　　　　☆　　　　　☆

次の日から　ボクは　あっちこっちを飛び回って、いろんな鳥に呼びかけた。

「山鳩のグレイが　人間の子供に　目をやられちまったんだ。

どんぐりでケガさせられたからには　どんぐりで　反撃する！！

みんな　どんぐりを拾って　団地の裏の林まで、持って来てくれないか？」

この　お願いは、鳥たちの口伝えで　どんどんひろがっていった。

「グレイがやられたんだって！　どんぐりを集めよう！！」

「相手は　人間の子供だ。手かげんしたら、こっちがやられる。がんばろう！」

「どんぐり戦争するのか？　グレイのためだな！　負けるもんか！！」

林の中に、たくさんのどんぐりが　集められ　山のようになった。

「クロさん、このどんぐりを　いったいどうやって運ぶの？」

　 ちっちゃいスズメが　心配そうにたずねた。ボクは　みんなに聞こえるように大声で話した。

「ボクたち　カラスが、ビニール袋を集めてきた。この中に　つめ込もう！」

小さい鳥が　何羽かずつで　袋の口をひろげ、大きい鳥たちが　てぎわ良く、

どんぐりをつめ込んでいく。どんぐりバクダンが　たくさん完成した。

「明日の　お昼、人間の子供たちが通っている　小学校に、どんぐりの雨を降らせる！

大きい鳥さんたちは　ビニール袋をはこんでください。ちっちゃい鳥さんたちは

ボクの合図で　いっせいにその袋の底を　つっついて破り、

どんぐりを子供たちに　おみまいするんだ！　子供たちが　校庭で遊びはじめたら

ボクが　呼ぶから、そのときこそ　作戦開始！　みんな！　がんばろう！！」

鳥たちは　気持ちをひとつにして、飛び立っていった。

グレイは　自分の巣の中で　黙ってようすを見ていた。

左目が　痛いのか、つばさで　こすろうとしている。そのはずみで

　 血のかたまりが　ポロッと落ちた。キズは　目より少し上だったようだ。

「グレイ！　左目は　見えるか？」　ボクは　さけんだ。

「あぁ！　おまえの顔が　よぉ〜く見えるよ・・・」　グレイは　声をつまらせた。

「よかったなぁ〜。明日は　そこから　見守っててくれよ、両目でな！」

「じょうだんじゃない！　オレも　いっしょに行くに　決まってるだろ！！」

「じゃぁ、明日！！」　ボクは　グレイの目を見ながら、飛び立った。

☆　　　　　☆　　　　　☆

決戦の日、ボクは　ちょっぴり　きんちょうしていた。

いつもの電柱のてっぺんで　気持ちを落ち着けようと、止まってはみたものの

おまわりさんが呼んでいるのに　しばらく気づかなかったくらいだから。

「おまえのお気に入りの　タコさんウインナーだ。食うか？」　おまわりさんが

８本足のウインナーを　手のひらにのせて、そう言った。

おまわりさんは　きょうが　だいじな日だって、知ってるかのようだ。

ボクは　えくりょなく　いただいて、ペコリと　おじぎした。

力が　わいてきた。よし！　行こう！！　おまわりさんが

「気をつけるんだぞ！」　と　声をかけてくれているのを聞きながら、小学校へ向かった。

昼休み、子供たちが　校庭に飛び出して来た。今だな！　ボクは　鳥たちを呼んだ。

「カァ〜〜！　カッ！　カァ〜！　お〜い！　作戦開始！！」

大きい鳥たちが　校庭の真上に来たとき、ボクは　合図を　送った。

「カッ！　カッ！　カッ！　袋をやぶれ！！」

ちっちゃい鳥たちが　袋の底をやぶると、校庭に　どんぐりの雨が降った。

「わ〜い！　どんぐりだ！！」　「こんなに　たくさん！」

「先生！　どんぐりが　降ってきたよ〜」　「あっ！　鳥さんたちが　運んでくれたんだ」

「鳥さんたち〜〜、ありがとう〜」　「たいせつに　使うよ〜〜」

子供たちは　ボクたちに　手を振って　喜んでいる。

「おい！　クロ！！　これで　いいのか？」　グレイが　ニヤリと笑った。

「あっ、あぁ・・・、こういう作戦だったのさ！」　ボクも　ニコッと　笑いかえした。

「みんな！　作戦は成功だ！　もう　鳥たちが　ねらわれることはなくなった！」

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

いつのまにか　秋も終わろうとしている。

秋は　ボクたちの鳴き声を　受け入れてくれる季節のようだ。

ボクたちが　巣に帰るころ、人間は　落ち葉を踏みしめ　立ち止まったり、

夕焼けにそまった空を見上げたりしている。人間にも　悩みがあるのか？

ボクたちの悩みは　とりわけ、「食料を　どうやって　手に入れるか」　と　いうことだ。

お店で買ったり、畑で作ったりできればいいんだけど　それは無理な話。

木の実や　おいしい草も、この頃は　人間の手によって　うばわれつつある。

ちょっと　かたい言い方だったかな？　人間が　木を切って、草っぱらを　埋め立てて

ボクたちの食料を　どんどん減らしてしまうんだ。だから、きょうも・・・。

☆　　　　　☆　　　　　☆

「お〜い、あっちの　ごみ置き場は　どうだった？」

　 川向こうの住宅街に　行ってきた友達に、いい食べ物があったか　聞いてみた。

　 「ダメだよ、クロ。ネットが　かけてあって、ゴミ袋の中が　調べられないんだ」

　 友達は　おなかをすかせて、ちょっと　イライラしながら　ボクに教えてくれた。

　 「やっぱり　団地に行くしかないか・・・」　ボクは　あきらめて

　 仲間たちと　いつもの場所で　朝ごはんをとることにした。

　 「いつも　おんなじような食べ物ばっかりで、あきてきたな」　友達は　グチを言った。

　 「しょうがないさ。しかし、量だけは　じゅうぶんにあるからな・・・」

　　 ボクは　手なれた動きで、袋を破りながら　ボソボソと　話した。

　 くちばしが　缶のようなものにふれた。コンコンコンッと　つっついていたら

　 穴があいて、シューっと　へんなにおいの空気が　出てきた。

　 そのとき、運悪く　そばを通り過ぎた車の窓から　吸いかけのタバコが

　 飛んできたから　たまらない。　ボッカ〜ン！！　にぶい音だったが　爆発だ。

　 「そりゃぁ、ボクは　黒いさ！　黒いけど・・・もっと　黒くなってない？」

　 こげくさいボクは　そんなことを口走りながら、たおれた。

　 ☆　　　　　☆　　　　　☆

団地のゴミ置き場のボヤ騒ぎで、交番のおまわりさんもやって来た。

気絶しているボクを見つけて、またまた　水をぶっかけたんだよ。

もう　秋なんだからね！　寒いよ！！　でも　おかげで　目がさめたから、まっいっか。

「だいじょうぶか？　ほんとに　いろいろなことに　巻き込まれるヤツだなぁ」

笑いながら　おまわりさんは、ボクが　ケガしていないか調べてくれた。

「ハネがちょっと　コゲちゃったかもな。でも　たいしたことはない」

医者でもないのに、よく言うよ！　ほんとに　たいしたことないのかなぁ？

おまわりさんは　ボクに向かって　ほほえんでいたかと思ったら、急に

「今回は　ここで、爆発したから、大事には至りませんでしたが・・・」　と、

集まっていた　団地の住民に　きびしい顔で話し始めた。

「清掃車の中で　爆発したら　被害者が出ていたかもしれませんよ」

住民たちも　反省しているようで、口々に

　 「そうですね！　ゴミ出しのルールは　守らなければ」

「タバコのポイ捨ても　とても危険なことなんだな」

「このカラスに　功労賞をあげたいくらいですな！」　と　意見を言っていた。

☆　　　　　☆　　　　　☆

ボクたちが　ゴミ置き場を荒らすのは　どうしてか？

増えすぎたボクたちの仲間を殺す権利が　人間にはあるのか？

このお話の　最初にボクが言ったように、ボクたちは

人間のこと、ほんとは　とっても好きなのに・・・。


ところで　あの団地では、どんな方法で　ゴミ置き場荒らしを　追っぱらったと思う？

ボクたちを　餌付けすることは　好ましくない！っていう反対意見を押し切って

「ゴミ・ステーション」のそばに　「カラステーション」ってのができたんだ。

ボクたちは　早起きだから、朝早く　残り物の生ゴミを　「カラステーション」に

おじさんが　入れておいてくれるよ。ときどき　大好物も入ってるんだ。

ボクたちは　そのごちそうだけを　きれいに　いただいて帰るってわけ。

決まりを守らない　のら猫たちは　ボクたちが　追っぱらうんだ。

「カァ〜！　いいかげんにせんカァ〜」　ってね！！

（おしまい）