×月○日 （気分は夕焼け） 週刊童話 第２号
カラスのクロが どこに住んでいるのか、だれも知りません。
朝になると あらわれ、夕方には すがたが見えなくなってしまいます。
人間は カラスのこと、あんまり好きじゃないみたいだけど
カラスは 人間が 好きなんだよ・・・。
これから 始まるお話は、カラスのクロが引き起こす、ハチャメチャな喜劇です。
少しでも クロのファンが 増えてくれると とってもうれしい！
って、クロが 申しております。
それでは、ここからは カラスのクロの言葉を 日本語に書き直して おとどけしますね。
☆ ☆ ☆
暑い、あつい！ 夏だからしかたないけど、ボクたちカラスにとっちゃぁ、
たまらないね、この 陽射し・・・。ボクだって 白い服に 着替えたいよ！
きょうは ボクの お気に入りの場所を おしえてあげよう。
それはね・・・、ここだよ！ この 踏み切りのそばの 電柱のてっぺん。
いろ〜んなものが見えるし、おもしろいことも 起こるんだ。
さぁ、ここで しばらく 休憩しよう。暑いけど がまん、がまん。
☆ ☆ ☆
そろそろ お昼なんだな？ 交番のおまわりさんが帰ってきた。
バイクをとめて、おでこの汗を ハンカチでふきながら・・・
あ〜あ、中へ入って行っちゃった。きょうは こっちに あいさつしてくれなかったなぁ〜。
お昼なのに ボクは、お腹 すかないのかって？ だいじょうぶ！
朝ごはんを た〜っぷり食べてきたんだ。むこうの団地の ゴミ出し日だったからね。
おまわりさんは 今から、愛妻弁当っていうのを食べるんだよ。
ほらほら、いつものように 奥の部屋に行って、お茶をいれてきたぞ。
そして、ロッカーから お弁当を出してきて、いすに座るとき・・・、
「ドッコイショッとぉ〜」 やっぱり きょうも 言ってらぁ〜。
おいしそうに 食べるんだよなぁ。ボク、おかずが気になって しかたないんだ。
カン、カン、カン、カン・・・踏み切りの警報機が鳴り出した。
電車が来るんだな。ボク、この音のマネ、できるんだよ。
「アッ、アッ、アッ、アッ・・・」 ほらね、うまいでしょ。
遮断機が おりはじめたとき、すごいスピードで スポーツカーが走ってきた。
なにやってんだ？！ あの車！！ とまれ！ とまれってば・・・。
ガッシャーン！！ バキバキ！ 車は 遮断機の棒を へし折って
そのまま 突っ走って行ってしまった・・・。
あ〜っ、やっと おまわりさんが 飛び出してきた。もう 行っちゃったのに・・・。
ほっぺたに ごはんつぶ、くっついてるよ。しょうがないなぁ〜。
また、カン、カン、カン、カン・・・反対側から 電車が近づいてきた。
あの棒、こわれちゃってるから、今 車が来たら あぶないかも・・・。
来た！ 車が 来ちゃったよ。 ど、ど、どうしよう。
「アッ、アッ、アッ、アッ・・・」 こんなことしても ムダかぁ〜。
おまわりさんは さっきの車のことで 連絡に行ったのかなぁ。
姿が見えなくなっちゃった。
電車は 手前の駅に 停車しているので、警報機は 長い時間 鳴りっぱなしになる。
早く あっちの車に 知らせなくちゃ！
☆ ☆ ☆
ボクは とっさに 迫ってくる車に向かって 飛んでいった。
運転席がわの フロント・ガラスの前に 回り込んで、大きくはばたいた。
ちょうど 踏み切りの手前で、運転手のおばさんは 一旦停止するところだったんだな、これが。
コツン！ ちょっとした衝撃で ボクの足が フロント・ガラスにぶつかった。
「カラス、ガラスに激突！」・・・そんな新聞の見出しのような言葉を
思い浮かべながら、ボクは 気を失ったようだ。
「あぶないわねぇ〜、まったく！」 運転手のおばさんが、
そう言うのと同時に 電車が通過して行った。
「けが、なかったですか？」 おまわりさんが 急いで 走ってきた。
「このカラスが 飛び込んでくるんですもの、おどろいたわ。
スピードを落としたところだったから、よかったけど・・・」
運転手のおばさんは そう 言い残して、走り去っていった。
道路で のびていたボクを おまわりさんは 抱きかかえて、交番まで運んでくれた。
☆ ☆ ☆
「気絶してるだけだろう・・・」 水の入ったコップを持って来た おまわりさんは、
それをボクに かけたんだ。な、なに するんだぁ！って思ったけど
おかげさまで、バッチリ 目がさめた。いい においがする。なんだ？
「車に 危険を知らせてくれたんだろ？ よかったら食えよ」
差し出されたお皿のうえには 愛妻弁当のおすそわけが のっかってたんだ。
気になってしょうがなかったおかずを ボクは今、食べられるんだぜ。
ぶつかって よかったぁ〜。
エビフライの上には ボクの大好きな マヨネーズみたいな味の
タルタルソースが かけてあった。うまい！ こんなのを おまわりさんは
毎日 食べているのかと思ったら、うらやましくて 頭をつっついてやりたくなった。
卵焼きは ほんのりあまくて、から揚げや ポテトも ゴミ置き場で
食べたものより ずっとおいしかった。赤くて まぁ〜るいやつは くちばしで
はさみにくいったら ありゃしない。やっとのことで かんだら・・・すっぱ！トマトだ。
口直しに ご飯を食べていたら、黒いものが出てきた。海苔のつくだにだ。
うめぼしでなくて よかったぁ〜。で、これは なんだ？？ ウインナー・ソーセージの
においがするんだけど、かたちが みょうなんだ。８本足で 攻撃的なおかずじゃないか！
くちばしで 押さえ込み、用心深く かみついた。あ〜、しあわせ。
《イラスト：スピネルさん 作》
おまわりさん！ ごちそうさま〜。ボクは きれいにたいらげて 飛び立った。
「もう、むちゃするんじゃないぞ！」 おまわりさんが 見送ってくれているのを
とってもうれしく感じながら、ボクは ひと声、返事をした。
「ガァ〜！」 もう、家に帰ろう。
☆ ☆ ☆
何日かたったある日、朝早く ボクが いつもの電柱のてっぺんに行ってみたら
山鳩が そこに 居座っていたんだ。
「山鳩さん、そこは ボクの指定席なんだ。他へ行ってくれないか？」
ボクのいじわるな言い方に ちょっとだけ ムッとして 山鳩は答えた。
「だれが 決めたんだ？」 聞かれて当然のことだった。
「ボクだ！」 またまた エラそうなボク。
「それならば オレも、ここは オレの場所だと 決めた！」
なにぃ〜、山鳩め！ なかなか てごわいぞ。きょうのところは あきらめるか。
「明日は ボクが その席をいただくからな」
そう言いのこして、ボクは 別の場所へ 飛び立った。後ろのほうから 山鳩の
「デデーポッポ、デデーポッポ〜」 という 勝ち誇ったような鳴き声が聞こえる。
☆ ☆ ☆
ちょっと すっきりしない気分のまま ボクは 近くの公園に降り立った。
ここは とても 掃除がゆきとどいているので、ボクらのエサは
なかなか見つからないんだ。なのに なぜ、ここに来たかっていうとね、
これさ！ ボク すべり台をすべりおりるのが 大好きなんだよ。
この公園のは とちゅうでカーブがあって、ちょっとむずかしいんだ。
うまく滑れないともだちに じまんできるのも 楽しい。
ややっ！ ともだちも 何羽か、飛んできたな。
それじゃぁ、カッコよくすべって見せようかな。スゥ〜ィ！ っと、
調子よかったんだけど カーブのところで バランスをくずしてしまって
おっとっと・・・前のめりに 砂場に頭を つっこんでしまった。
「痛ってぇ〜」 涙が出そうになったけど グッとこらえて 仲間たちを見回した。
「アホ、アホ、アホ！」 そんな声で 笑われてしまった、くっそ〜。
ん？ ありゃぁ 何だ？？ ボクは 砂場の中に キラキラ光る小さなものを 見つけた。
光ってるものは、大好きだ。巣に持って帰って、飾りつけよう。
ボクは くちばしで その小さなリングを拾い上げると 飛び立とうとした。
でも、これ たいせつな宝物だったら・・・
きっと 困ってる人間が いるんだろうな〜？
ボクは 夕方まで、リングを捜しに来る人間がいないか、様子をみていた。
砂場をほじくりかえしている人は見当たらない。
公園の中を 腰をかがめて、何かを見つけようとしている姿もない。
しょうがないから きょうは ひとまず、自分の巣に持って帰ることにしよう。
☆ ☆ ☆
次の日の朝早く、ボクは きのうの公園へ行ってみることにした。
いつもの 電柱のそばを 通り過ぎようとしたとき、山鳩が 鳴いた。
「デデーッポッポー、デデーポッポー」 ボクは 振り向かなかった。
「きょうも この指定席、いただいたぞ！」 山鳩の そんな声が聞こえたけど、
ボクは かまわずに、公園を目指した。ひょうしぬけしたような山鳩の声が
すこし高くなった秋空に ひびいていた。
公園につくと ボクは すべり台の上から、まわりを見渡した。
若い男の人が こちらへやってくる。一直線にではない。
右へ フラフラ歩いて、植え込みの中をのぞき、左へ行って ゴミ箱をしらべている。
その若者は 急になにかを思い出したようで、砂場へ 走ってくるなり
ものすごい いきおいで、砂をほりはじめた。わっ！ボクにまで かかっちゃうよ。
どれくらいの時間、そうしていたんだろう。とうとう、若者は その手を止めてしゃがみこんだ。
ボクが すべり台を スイ〜ッと すべって、近づいていくと、
びっくりして 逃げて行っちゃった！ ボク、おどろかせていないんだけど・・・。
☆ ☆ ☆
どこへ行ったんだろう？ ボクは 高く飛び上がって、見回してみた。
あっ！ いたいた！ 交番のほうへ走って行く 若者を見つけたボクは
あとを 追いかけた。やっぱり、あのおまわりさんに 相談している。
「公園で 大切な指輪を なくしちゃったんです」 若者は 泣き出しそうだった。
「じゃぁ、この書類に お名前と 住所と なくしたものと・・・・」
おまわりさんは きょうも 笑顔で 話している。
「はやく 見つかるといいですね。がんばって 捜しましょう」 ２人が 交番の外に
出てきたとき、ボクは 降りて行って あしもとに リングを置いた。
「こ、これだ！」 若者は リングを拾い上げて さけんだ。
「おまわりさん！ これです！ 見つかりました！！」
「よかったですね〜」 若者に言ったあと、ボクにむかって
「おい！ ありがとな！ いいヤツだな〜、おまえは・・・」 と おまわりさんは笑った。
ボクも たからものの持ち主が見つかって、うれしかったので
「カァ〜、カァ〜」 って とびっきり いい声で鳴いてから 飛び立った。
☆ ☆ ☆
その次の朝は ボク、すごく早起きして がんばったさ！
いつもの電柱に 山鳩は まだ 来ていなかった。やったね！ 本気を出せば 楽勝さ。
気持ちのいい 朝の空気を吸い込んで、お腹の底から 笑った。
「カッ！ カッ！ カッ！」 それから いつものように、あたりを見渡して楽しんでいた。
おひさまが だいぶ高くなったころ、昨日の若者が 交番にやってきた。
手をつないでいるのは 彼女だろうか、指にリングが 光っていた。
ボクは おまわりさんが 手まねきするので、降りていった。
若者は ポケットの中に手を突っ込んで ゴソゴソやってたかと思うと
「これ、昨日のお礼と言っちゃぁ へんだけど・・・」 差し出されたのは
赤いネットに入った １０個ばかりのビー玉だった。おひさまの光を受けて
キラッとひかったビー玉は あのリングよりも ボクにとっては よっぽど魅力的だった。
ボク、もらっちゃって いいのかなぁ〜？ 首をかしげていると
おまわりさんが くわえさせてくれた。
「おまえに お礼だってさ！ よかったな」 って。
（下につづく）
