▽月★日 （気分はボチボチ） ボツ童話？号
「たくや、うまくかけてるなぁ、このニワトリ。今にも かけ出しそうだ」
先生は ぼくの絵を のぞきこみながら、そう言って、頭を なでてくれた。
ぼくは 国語も 算数も 生活科も とくいじゃないけど、
図工と体育だけは 大好き。とくに お絵かきの時間は 楽しいよ。
家に帰って、おかあさんに 図工の時間のことを 話した。
「……そしてね、先生が 頭を二回も なでてくれたの」
「よかったね、たくや。その ニワトリの絵、持って帰ってきたら
また、おかあさんのホームページに のせようね」
ぼくのおかあさんは 童話のホームページを作っている。
楽しいお話を たくさん書いて、みんなに読んでもらいたいんだって。
それで、そのホームページに ぼくの絵のコーナーを作ってくれたので、
お気に入りの絵を のせてもらっている。たまーにだけど、ぼくにも、
感想のメールが とどくこともあるんだよ。きょうも おかあさんが
「たくやに メールが来てるわよ。ほら！」
と 言って 見せてくれた。それには
『たくやくん、はじめまして！ たくやくんの絵を見ると、元気が出てきます。
少し パワーを わけてほしいです。わたしも お絵かきが 大好きなので、
絵てがみで 文通してもらえませんか？ かなこ』 と 書いてあった。
（か・な・こ？ 聞いたことがある 名前だなぁ）
そう思いながら、ぼくは お返事のメールを送った。
『かなこちゃん、メール ありがとう。ぼくも 文通したいです。
住所を 書いておくので、よかったら 絵てがみを送ってきてね。 たくや』
☆ ☆ ☆
「先生、おはようございます」
「はい、みんな おはよう。元気に 登校してきたね。じゃぁ、出席をとるよ」
そのとき、ぼくは思い出した。『かなこ』って 佐々木さんの名前だった……。
佐々木さんは 一学期のはじめから、病気で 市内の大きな病院に 入院している。
みんなで おみまいに行くと めいわくになるからと、先生が 毎日
おみまいに行って、ぼくたちに 様子を伝えてくれるんだ。
「きのうも かなこは 元気そうに 勉強していたぞ」
「えー、入院してても 勉強しなくちゃいけないの？」
と、ぼくと同じくらい 勉強が にがてな つよしくんが言った。
先生は 笑いながら、説明してくれた。
「病院の中にも 小さな 学校が あるんだ。退院して 学校に
もどって来たときに、みんなと同じところから 勉強できるようにね。
でも、それは ぐあいの いいときだけ。だから かなこは、きのうも
調子がよかったってことなんだよ」
（早く、退院できるといいな、佐々木さん）
……そんなことを 考えながら、
（やっぱり きのうのメールは 別のかなこちゃんだろうな）と 思い直した。
☆ ☆ ☆
三日後の夕方、ぼくが 家に帰ると、おかあさんが ニコニコしながら 言った。
「たくやに ハガキが とどいてるわよ」
「ハガキ？ だれから？ おかあさん、見せてよ、早く！」
それは かなこちゃんからの ハガキだった。うさぎが 目を細ーくして
笑っている かわいい絵のそばに
『どうぞ よろしく かなこ』 と 書いてあった。
「やったぁー！」 ぼくは とび上がって 叫んだ。
「たくや、その子の住所ねぇ、市内の 病院のものなのよね。きっと 入院中なんだわ」
おかあさんの言葉に おどろいて、もう一度 その絵を 見つめた。
やっぱり かなこちゃんは 佐々木さんだったんだ……。
ぼくは おみまいの気持ちをこめて、カメの絵をかいた。
どんな言葉をそえようか、迷ったけれど
『マイペース、マイペース たくや』 って 書いた。
あせらずに 病気を なおしてほしかったから。
こうして かなこちゃんと ぼくの 文通は 始まったんだ。
☆ ☆ ☆
もうすぐ お盆というころ、きれいな花火の絵と
『ギリギリ・セーフ 見に行ける かなこ』 と 書かれた ハガキがきた。
ぼくは おいわいに スイカの絵を 送った、
『夏は これから たくや』 と 書いて。
（おわり）
